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活動ニュース・アーカイブ
五井平和財団主催「講演会シリーズ:21世紀の価値観」
 
第16回  
「願いをもって生きる」ということ  
講 師 清水博(しみずひろし)
東京大学名誉教授、NPO法人「場の研究所」所長

 
Profile
1932年愛知県生まれ。東京大学名誉教授。NPO法人「場の研究所」所長。56年東京大学医学部薬学科卒業。70年九州大学理学部教授。76年東京大学薬学部教授。80年より諸学の統合的視点から生命を解明するバイオホロニクス(生命関係学)の研究を開始する。93年金沢工業大学に「場の研究所」を設立、情報工学科教授となる。著書『生命を捉えなおす』(中公新書)、『生命と場所』(NTT出版)、『場の思想』(東京大学出版会)ほか多数。
NPO法人「場の研究所」HP
http://www.banokenkyujo.org
 
   

「講演会シリーズ:21世紀の価値観」第16回は、東京大学名誉教授でNPO法人「場の研究所」の所長である清水博先生をお迎えして開催されました。東京大学医学部薬学科の学生時代から、生命を科学したいという思いを持ち、独自の研究の道を歩まれて来られました。現在ではご自分のことを「研究者というより、生きるとはどういうことかを考える思想のクリエーターです」と語る清水先生。「生きる」ことに対する長年の研究から発せられる言葉は奥が深く、聞き応えのある講演会となりました。(2007年9月4日 東京ウィメンズプラザ 参加者 170名)

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現代社会が抱える問題の原因

 皆さんご存知でしょうが、いま日本では年間約三万人の自殺者が出ています。自殺をする人というのは、「生きている」状態が維持できないのではなく、「生きていく」ことができないのだと私は思っています。
 例えば、自殺を図った人が病院に運ばれたとします。病院は、生命を保つための機能に支障があれば生きていけませんから、その機能を正常に戻す治療を行います。自殺を図った人は、やがて機能が回復すれば退院していきます。しかしこのとき、この人の「生きている」状態を維持していくための問題は解決されますが、「生きていく」ための問題は解決されていません。「生きていく」という問題は、一人ひとりまったく違うものであり、その人にとって価値や意味のあるものであれば、その生き方は良い生き方といえるわけです。ですから、機能をどれほど高めても問題解決にはなりません。「生きていく」ためには、「存在」の問題について考えなければなりません。私たちは存在を維持するために、たくさんの生命をいただいています。それは、地球上の人間以外の生物も同様です。このような、生と死を含めた大きな循環の中に、たくさんの生命が共に存在しています。
 私はこれを「共存在(きょうそんざい)」と呼んでいます。現代社会は、この共存在という存在を忘れ、機能の追求だけを行っているために、様々な問題が生じているのです。
 温暖化も、存在の世界を置き去りにして、機能だけを追求した結果だといえます。もう三十年近く前になりますが、私は政府の科学部門の相談役をしておりました。将来、エネルギー問題が起こるから早く手を打った方がいいと申し上げましたが、思想というのはなかなか受け入れられにくいもの。結局、温暖化やエネルギー問題は発生し、今に至ってしまいました。
 また、子どもたちの様々な問題にも当てはまります。昔は、家族が生きている状態を保つための機能は父親が担い、家庭は家族が一緒に生きていく存在の場として、うまく循環していました。ところが近年、いい大学、いい企業といった機能原理が家庭の場へ入り込んで来たために、子どもは抑圧され、次第に自分としての生き方がわからなくなり、引きこもりや、残酷な事件を引き起こしてしまうのです。
 問題は、本来「存在」の中に「機能」があるはずが逆転してしまったために起こっています。二十世紀は機能的な世界観に影響されてきましたし、そして機能は、生物進化する上でも重要不可欠なものです。しかし、目に見えない存在の世界にも非常に意味があることを忘れてはならないと思います。存在と機能が調和し、循環できるようになることが、これからの社会の大きな課題の一つだと思います。

生命は「願い」を持っている

 「生命の本質的な特徴は持続である」といったのはフランスの哲学者、ベルクソンです。私はこれを、「命には願いがある」と考えてみたらどうかと思っています。つまり生命は、本質的に続けたいという願いを持っているのではないかということです。
 人間はもとより、動物、昆虫、ゴキブリだって、生命あるものは皆、願いを持っている。そして、いろいろな生命の願いを受け止めることを、さらなる願いとして全体を包み込むような大きな命があるのではないかと思っています。
 これは、仏教に通じる考え方かもしれませんが、私は「二重生命」と呼んでいます。皆さんの生命と、皆さんの生命を包む大きな生命。それは言いかえれば、地球という生命体といえると思います。
 そこで私たちは、単に包まれるというだけでなく、成長していかなくてはなりません。そのための一番いい生き方は、答えではなく、問いかけを求め続けることだと思います。今何を考えるべきかを自分に問いかけ、一生懸命答えを出そうとする。出た答えは、また問いかけになる。これは機能の問題ではなく存在の問題ですから、正解はありません。世界が動いている中で、終わりということはないのです。

地球を一つの場として捉えて生きる時代になる

 地球と皆さんの生命が重なり合っているということは、皆さんの個性は地球に影響を与えています。ですから、みんな同じことをしてしまうと、地球は生きていけません。だから、この大きな存在の場は、私たちはこの地上で唯一無二の存在であるということを自覚させてくれるものだと思います。
 機能だけを考えれば、地位が高いとか、お金持ちとか、人との比較が生じてしまいます。しかし、存在者としては皆対等なのです。これからは、どんな組織においても、人の顔がわかることが大事です。一人の人が地球と関係し、どこかの会社と関係し、家庭と関係し、地域社会と関係する。というように、一人がいろいろな場と関係し、二重的な世界をたくさん持つような時代になっていくのではないかと思います。
 そして、これからは「場の時代」が来ると思います。地球を一つの大きな場として、家庭のように考え、生きていくようになるでしょう。そうなると、今のような機能の追求や拡大をし続けては生きていけません。
 これからは、地球の負担を軽減する機能であることが優先されます。例えば、太陽などの自然のエネルギーを活用するとか、里山を活用するとか。他には、コミュニケーションのあり方を考えていく方法もあります。いずれにしても、我々が生きていることについて、考え、知識を深め、生きていく関係を互いに深めていくという意識の下に、私たちはどう生きていくべきなのかを、みんなで考えていくのが望ましいと思います。

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(Q&A)

客席 生きていく上で、生き方に自信が持てるコツがあれば教えてください。

清水 私は大学時代、先生に「薬学部は、薬だけではなく、薬が作用する人間について同時に研究すべきです」など、よく生意気なことをいいました。しかし、先生は否定をせず、話を聞いて受け止めてくれました。気取らずフランクに自分を表現したときに、否定せず一つの考え方として受け止めてもらえると、自信が生まれ、成長の糧にもなります。ですから、そういう仲間を作ったらよいと思います。
 そして、できれば輪を広げていってください。ネットワークが広がり深まっていくと、ネットワーク内でコミュニケートされる情報のレベルは上がり、存在に直接関係する情報が交換できるようになります。これを「場の情報」といっているのですが、今のインターネットやメールというツールは、表現の仕方によっては誤解を生んでしまうため、正しく伝えられません。今の皆さんは、会うことによってチャンネルが開かれていくと考えていただけばよいと思います。
 場の情報を伝える方法は、未来の社会、科学技術の課題になっていくと思います。