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2009年度五井平和財団フォーラム
トークセッション「明るい未来へのシナリオ」
   
 

<出演者>

ブルース・リプトン(細胞生物学者、2009年度五井平和賞受賞者)
田坂広志(多摩大学大学院教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表、社会起業家フォーラム代表)
西園寺昌美(五井平和財団会長)

<コーディネーター>

西園寺裕夫(五井平和財団理事長)

(西園寺裕夫) 第一部では、リプトン博士の40年にわたる研究のエキスを発表いただきましたが、まずはその講演をお聞きしたご感想からお話いただけますか。
(田坂広志) 本当に興味深い話を伺いました。私は40年近く前に大学で量子力学を学びましたが、そもそも、私たちの目の前にある物質とは、量子力学的な視点で見るならば単なるエネルギーにすぎないわけです。そして、最先端の科学の発見が人々の意識に浸透するのに数十年かかると言われていますが、この量子力学的な認識が、生物学や社会科学の分野にまで影響を与える時代になったのだと、感慨深く聞かせていただきました。
 また、私は若い頃に大病を患ったのですが、そのとき数多くの本を読みました。その中で最も救われた言葉は、「人間の体には50兆の細胞があり、そのすべてが健康を回復させようとしている強い味方なのだ」との言葉でした。そしてもう一つは、「病に感謝せよ」との言葉でした。病気には意味があり、大切なことを教えてくれているのですね。そして、有り難いという感謝の心になったとき、病に対する恐怖が薄れていきました。
リプトン博士のお話を伺って、自身の体の細胞に対する感謝の思いが、細胞の持つ生命力を高めてくれたことを、改めて思いました。
(西園寺昌美) 今日のリプトン博士のお話に私は100万倍の味方を得たような気がしました。私は常日頃から、自分の意識が自分の人生を創造していくのだと思っておりました。
 リプトン博士のお話しを伺い、95%の時間は潜在意識の習慣で支配され、顕在意識が働くのはたった5%の時間であっても、この顕在意識に常にプラスの意識や思考を一生懸命インプットすることによって、生き方が少しずつでも変わっていく。遺伝子にすべてコントロールされてしまったら、人類の未来も自分の未来も全くなくなってしまいます。けれどもリプトン博士は、そこに光をあて、私たちに素晴らしい可能性や人生のつくり方を与えてくださったのだと思います。
 マイナスの環境では、細胞は病気になり死んでしまう。でも、良い環境に入れば細胞はどんどん活性化されていくことが科学的に証明されたのですから、自分には価値がない、能力がないといった、自己否定や自己処罰のマイナスな意識をできるだけ排除し、自分の命の尊さを知り、自分を信じ、敬い、感謝する。そういう意識に転換していくと、私たちの細胞はどんどん活性化されるのではないかと思いました。
(西園寺裕夫) ここで、会場の方々からいただいたご質問を紹介させていただきたいと思います。「私は一卵性双生児の子どもを育児中です。受け継いでいる遺伝子も環境も同じなのに、2人の性格が違うのですが、これはどう考えたらいいのでしょうか」。リプトン博士、いかがでしょうか。
(ブルース・リプトン) 最近、一卵性双生児の遺伝子に関する興味深い分析結果が得られました。生まれたときは、それぞれの遺伝子から読み取れるものは全く同じなのですが、1年、5年、10年と人生の経験を重ねるほど遺伝子は変わっていくのです。全く同じように育てればほぼ同じような双子として育っていきますが、親によってはそれぞれ違う育て方をしていく。そうすれば双子はどんどんかけ離れていきます。つまり、遺伝子は生活の経験を情報として読み込んでいくもので、家系からきているだけではないのです。
(西園寺裕夫) では、例えば、芸術家やスポーツマンの子どもが才能に恵まれる、あるいはがんや糖尿病など病気の遺伝子を持った親の子どもは、同じ病気になりやすい。これはどう説明されますか。
(ブルース・リプトン) 子どもが親から病気を受け継ぐのは、遺伝子の系統よりも親の行動パターンを学ぶことが、その大きな要因です。子どもの意識は、誕生してから6年間は催眠状態にあり、親がどのように人生に対応しているかを学んでいます。親の対応が健全でなければ、子どもも習慣的に不健全な対応をするようになります。
 ある研究によれば、がん家系の家庭に養子に入った子どもは全く遺伝子が違うのにも関わらず、その家族と同じ確率でがんになります。ですから、がんは遺伝子にあるのではなく、人生にどう反応するかの学びから起こるのです。
 学習したことは、引き継がれていきます。妊娠中、お母さんの感情や経験から生じた化学物質は実際に胎盤を通して胎児に伝えられ、子どもにも影響を与えます。お母さんが幸せなら子どもも幸せ。お母さんが恐怖心に満ちていたら子どもも恐怖心に満ちていく。つまり、子どもは胎児のときから母親の振る舞いを学んでいき、その子の人格の半分は生まれる前にでき上がっているのです。子どもは真っ白な石版のように思いがちですが、すでに胎児としてプログラムを受けているのです。
こういった行動や振る舞いは、遺伝子と同じように家系的に受け継がれていきます。例えば児童虐待の歴史を持つ家系があるとしましょう。その家系図をどんな病弊かを明かさずに見せると、代々伝わる遺伝的な病気があると思う人がいます。でも違います。その系図には児童虐待の行動が表われているのです。家系に伝わるものが、遺伝に関するものか、行動に関するものか、一概に判別することはできないのです。
(西園寺裕夫) 先ほどの基調講演では、細胞というミクロの観点からプレゼンテーションをしていただきましたが、ここで、人類がこれまでどのようなプロセスを経て、今後どのように進化して行くのか。マクロな観点からリプトン博士にお話いただき、次のディスカッションに移りたいと思います。
(ブルース・リプトン)
 個人の信条が個人の人生をつくるように、文明を支配している考え方が、その文明を形作っていくものです。
 人類の誕生以来、人間はとても重要な問題を何千年も問いかけてきました。
 「我々はどのようにしてここに到達したのか?」「我々はなぜここにいるのか?」「ここで我々はどうすれば一番よいのか?」の3つの問いです。これら「永遠の問い」に対する答えを出した機関や組織が公式の真理提供者となり、その時代の文明の特性を支配する基本的考え方、パラダイムを形成します。 
西洋文明では800年から1860年ぐらいまで、教会が真理提供者として一神論の文明、即ちユダヤ、キリスト文明を形成しました。問いへの答えは、我々は神によって創造され、ここは天国に行けるかどうかの試練の場であり、聖書の原理に従って生きるのが最善であるというものでした。
 しかし、1860年にチャールズ・ダーウィンが登場すると、科学が教会にとって代わって文明の真理提供者になりました。ダーウインは、問いに対して、我々は遺伝子の突然変異によって生まれ、遺伝子の偶然によってここに存在し、弱肉強食の論理によって生きていると答えたのです。我々の存在には理由はないし、我々は生きていくための永遠の闘争をしているということです。
 以後150年間、私たちの生き方は唯物的な科学に支配されてきました。しかし今日、新しい科学によって、これまでの4つの基本的な通念の欠陥が明らかにされています。
1つ目の誤った通念は、ニュートン物理学をもとにした科学物質主義。物質的、物理的領域の価値のみを認めるニュートン物理学に基づいて、人類は物質の所有にのみ焦点を当ててきたわけです。
それに対して、量子物理学では見えないエネルギーと物質は同一のものであると。その観点にたてば、すべての対立物は統合され、世界に調和をもたらします。また量子物理学では意識や心が我々の世界を創造する重要な役割を果たすことを認めています。
 2つ目の誤った通念は、遺伝学が生物をコントロールするという考え方。しかし、エピジェネティクスという新しい考え方で、世界観が変わりつつあります。遺伝子をコントロールするのは自分の心なのだと。今の世界はみんな責任放棄ですが、自分の人生に対して責任を持つ必要があるということです。
そして、誤った通念の3番目は、ダーウィン説による適者生存、弱肉強食の原理です。進化とは闘争、生きるためには競争しなければならない。それが暴力を生み、最終的には戦争を生んでしまう。それがこの考え方の一番大きな問題なわけです。
新しい科学では、進化は協調によって成し遂げられると考えています。これは今の我々の生き方とは全く逆です。進化を促すのは愛と利他主義であり、自然との調和が大事だと。それがサバイバルの鍵になるわけです。
 誤った通念の4番目は、進化は無作為なプロセスであり、我々の存在に目的はないという考え方です。それに対して、今日、進化の新しいプロセスが明らかになっています。進化は「適応的な変異」であって、無作為ではない。環境が変われば自分の遺伝子も変えて適応していくということです。人間は自然界が生物圏のバランスと調和をつくろうとする計画の一部として存在しているのです。
 こういった新しい修正された科学に基づく新しい真理が広まれば、私たちの生き方も変わり、世の中は全く変わると思います。人間は楽園を守り調和を築くために生きているのです。
 また、今まで進化には長い時間がかかると教えられましたが、新しい科学説では、何か危機が起きるとその危機に反応して飛躍をする。進化は一直線ではなく飛躍するということです。
 35億年前、単一細胞として生まれたバクテリアがコロニー(共同体)をつくり、最初の飛躍でアメーバに進化した。そのアメーバのコロニーが次の飛躍で人間になったわけです。50兆のアメーバの細胞が一つの皮膚の中に住んでいるのが人間です。
 そこで次の飛躍があるわけです。今度は地球に住む一人一人の人間が人類という一つの大きな生命体をつくり、調和にむかって生きるようになる。それがこれからの数年で起きてくる。
 争い続けていては、この惑星は自己破壊の道に進んでしまいます。我々70億の人類は一つの生命システムを支える一つ一つの細胞のように、協力して働き始めることが唯一の道です。
 今、私たちは大いなる進化を目前にした、最もエキサイティングな時代を生きています。その過程では、経済、政治、医療など、科学物質主義が支配する現在の文明のシステムが崩壊していくでしょう。しかし、これは新しい科学に基づく新しい文明が生まれる前兆なのです。
(西園寺裕夫) ありがとうございました。リプトン博士は、生物学的な見地から進化の方向性をお話いただきましたが、田坂先生のご専門的立場から、社会の進化のプロセスについてお話を伺えますでしょうか。
(田坂広志) リプトン博士が述べられた「永遠の問い」とは、「答えの無い問い」なのですね。そして、知性とは、「答えの無い問い」を問い続ける力のことに他なりません。
そして、人類の未来はどこに向かうかも「答えの無い問い」なのですが、その未来を予見するための哲学があります。それが、『未来を予見する「5つの法則」』という本に書いたヘーゲルの弁証法です。
この弁証法には「螺旋的発展の法則」と呼ばれるものがあります。これは、「世界は、螺旋階段を登るように発展する」という法則です。すなわち、螺旋階段を登る人を横から見れば、上に登っていくため進歩・発展していくように見えますが、上から見れば、一周回って元の位置へ戻ってくる。つまり、古く懐かしいものが復活してくるのです。しかし、それは螺旋階段であるため、必ず一段高い位置に登っている。
 例を挙げるならば、インターネットの世界は、ほとんど螺旋的発展です。例えば、ネット・オークションは、かつて数百人を相手にしていた懐かしい「競り」が、数百万人を相手にできるようになって復活したものです。
 そもそも、古代において、人類は、精神の力を重視していました。また、経済においても、金銭を目的ではなく、愛情や友情から大切なものを贈る、贈与経済、ギフトエコノミーという経済原理が主流でした。それが、貨幣の発明によって貨幣経済が主流となり、資本主義が発展したわけですが、しかし、近年、人間同士の共感を大切にする資本主義へと戻りつつあります。
こうした歴史の弁証法の視点でみると、リプトン博士の洞察は、様々な想像力を刺激してくれるように思います。
(西園寺裕夫) 五井平和財団では、「新しい文明を築く」イニシアティブを展開しておりますが、「新しい文明」とは、何もかも全てが新しいというより、古来の価値観や英知が新しい技術などと結びついて、より進化した良い形で生まれるものであったり、根底にある人々の意識や価値観によって大きく違ってくるものだったりすると思います。そうすると、どのように意識変革をしていくかが重要になるわけですが、何が意識変革を促進する力になると思われますか。
(西園寺昌美) 一番簡単で、誰もができる意識の改革は、「言葉を変える」ことだと思います。リプトン博士が、日本は「言霊」の世界だとおっしゃいましたが、私もその通りだと思います。言葉にはエネルギーがあり、命があると思っています。言葉は影響力と創造力を持ち、周囲に伝染していきます。
 悪い言葉や情報が溢れる中で、言葉に対して自己責任を持つべき時代なのだと思います。言葉は使い方によっては、幸せにもなれば恐ろしいものにもなります。戦争をつくり出すことだってできるのです。武器や原爆を造る以前に、その人たちの意識が言葉となり「戦争をしよう」と出る。でも、誰か一人でも「戦争をやめよう。もっと考えよう」という尊い真摯なる言葉を発すれば、そこで意識が転換され、エネルギーが良い方向へ動き出すのです。個人の日常生活でも、苦しさや生きにくさを感じるのは、自ら発する言葉によって自分を傷つけ、否定してしまっているからではないかと思います。
 言葉は、自分自身を変え、人を変えられる1つのチャンスです。ですから、一人一人が普段から子どもに、家族に、友人に、そして自分にどんな言葉を放つのかを考え、良い言葉を選び、投げかけていけば、意識は変わり、世界は変わっていくのではないかと思います。
(西園寺裕夫) リプトン博士は、いかがでしょうか。
(ブルース・リプトン) これまでの一番大きな問題は、知識や情報を持っていた人が限られていたことです。それが現代は、インターネットの存在により、世界中どこでも瞬時に情報や知識を得られるようになった。情報や知識はパワーとなり、しかも地球上の一人一人がそのパワーを身につけられるようになりました。これは進化における一番重要なポイントです。
 1つの考えが50兆の細胞全体に届くことで細胞が調和して生きられるように、世界の70億の人々が真実を得て、意見を声にするようになれば、一人一人が世界を変革するための能動的な参画者になれるわけです。
 世界中の人に「何を望むか」と尋ねれば、90%の人が「平和と自由」と答えるでしょう。それだけの人が、声を世界へ発信すれば世界は一夜にして変わる。何百万年もかからず、10年もかからず、1、2年でできるかもしれないのです。
 「自分たちは人類として、世界の現状に辟易した。調和の中に生きる用意はあるのだ」と多くの人が声にすれば、ある朝起きたとき、天国が地上に存在することを自覚するでしょう。私はその時が近いと思っています。
(西園寺裕夫) 博士は90%の人が声を上げればとおっしゃいましたが、私は数%の人の意識が変われば、クリティカルマスに達し大きな変革が起こり得るという希望を持っています。
(ブルース・リプトン) 付け加えますと、超越瞑想(TM)の研究によれば、人口の1%の平方根に相当する人数が変われば、全体を変えることができる。それは非常に小さな数字なので、変革はあっという間に起こり得るといいます。
(西園寺裕夫) 田坂先生は、人類の意識変革はどのように促進できるとお考えですか。
(田坂広志) 先日、ダライ・ラマ法王と4人の学者が対話する場に招かれました。そのとき法王に申し上げたのは、多くの人が善意でありながら、なぜ社会が悪しき方向に向かうのかということでした。
それは、人々の潜在意識と集合的無意識の世界に原因があるのでしょう。この潜在意識、集合的無意識の世界をどう変えていくのか。それが、21世紀における最大の課題の一つと思います。
 ただ、その一方で我々が知るべきは、「この世界は、自らを癒していく力がある」ということでしょう。例えば、資本主義が貪欲の極みまで行ったかと思うと壁に突き当たり、インターネットがボランタリー経済を活発にし、世界中の人たちが知恵を出し、協力し合うことを可能にしています。これは、人類の深い英知が新たな技術を生み出し、自らの変容と進化を遂げようとしているとも思えます。特にメディア技術とは、「人類意識を進化させる加速器」であるように思われます。
 西園寺会長が述べられた「言霊」は、私も極めて大切なものと思いますが、では、言葉に魂が宿る瞬間、その力の源泉はどこにあるのでしょうか。それは「信念」でしょう。どれほど立派な言葉も、それを語る人間がその言葉を深く信じていなければ、決して力を持たない。逆に、言葉とは、潜在意識の世界に浸透するまで心底信じ切ったとき、不思議な力を発揮するのですね。
(西園寺裕夫) 新しい文明を築く上では、従来の唯物的な科学だけではなく、人間の意識を変革するような科学の出現が1つの鍵になるだろうと考えています。イギリスの生態学者、ジェームス・ラブロック博士の「ガイア理論」にある、地球は1つの大きな生命体であるという感覚が科学的に立証されると、人類の意識は大きく変わってくるのではないかと思うのですが、リプトン博士はご研究の中で、そのような命のつながりを感じられたことはありますか。
(ブルース・リプトン) 私は生物学者として、自然を研究してきました。自然の中に身を置くようになると、考え方だけでなく、全身全霊が変わりました。地球に対する愛、この惑星に住めることの素晴らしさを実感できるようになったのです。私にとって天国とは、まさにこの地球。なぜならここは、美と創造の場所だからです。
 私たちは調和して暮らすためのルールを学ぶべきだったのに、学んでこなかった。でも意識が変われば、呼吸するのと同じように自然と喜びと美に溶け込み、生きることができるのです。自分は何者で、自然とどう関係しているのかを学ぶことが、人類にとって最も重要な課題なのです。私たちは自然を破壊し、自分たちの人生や生命までも危機にさらしています。しかし、立ち止まって地球という楽園を守ろう、樹を植え、子どもをちゃんと育て、進化のプロセスを遂げていこうという意識が新しいサイエンスによって広がりつつあります。
 実は、私は精神世界を信じてきませんでした。子どもの頃、宗教的な人の言葉と行動の不一致な姿から、精神性を求めるのではなく、科学の分野で世界の真実を追究しようと思ったわけです。しかし、科学と精神性の関連を発見してからは、単なる科学者ではなく、精神性を持った科学者として私の人生は開花しました。
 量子力学によって、精神世界の言葉のみで語られてきた見えない力が、科学の言葉で語られるようになってきました。科学と精神は今、再び結合しようとしています。これは非常に素晴らしいことです。
(西園寺裕夫) ここでまた、会場のみなさんからの質問をお聞きしたいと思います。「リプトン博士の子どもの頃はどのような環境だったのですか」。それともう1つは、「長い研究生活の中で、何かひらめきみたいなものがあったのでしょうか」。リプトン博士、いかがでしょうか。
(ブルース・リプトン) 子どもの頃は、良い教育を受け、学術的な環境で過ごすことができました。でも、人間関係や社会との関係ではあまりいいプログラミングをされなかったので、私は孤立した科学者だったといえます。
 しかし、1985年、朝の1時59分。この一瞬で全く違う人生に変わりました。その時、ちょうど細胞膜の定義を書いていました。「細胞膜は液晶の半導体で、ゲートとチャネルを持つものである」と。これを書いたとき、どこかで聞いたような気がして、コンピューターのマニュアルを開いてみると、同じ定義が書いてあった。要するに、細胞はプログラミングができるチップであり、プログラマーは環境である。健康になるのも病気になるのも環境によるプログラミング次第だということがわかったのです。
 人生最大の瞬間はその後に訪れました。ある人の細胞を別の人の体へ移そうとすると、免疫システムは自分の細胞ではないといって拒否反応を起こします。だから細胞は「自己」を持っている。では、細胞の表面に人それぞれ固有の「膜スイッチ」を一式持っているので、膜スイッチが自己なのかというと、そうではない。なぜなら膜スイッチは、環境に反応するからです。要するに私の自己、アイデンティティは、環境から膜スイッチを通して細胞へ伝わって落とし込まれたものであって、体の中ではなく、環境の中にいることに気が付いたのです。
 そして、私は死ぬことはないのだということにも気づきました。たとえ肉体は死んでも環境は残るのだから、将来、私の細胞と同じ膜スイッチを持った人が現れれば私はまた戻ってくる。男性か、女性か、白人か黒人かはわからないけれど、この惑星に戻ってくる。これが私の正体だという、スピリチュアルな世界に気がついたのです。私の人生はこのたった1分間でガラリと変化しました。
 魂が存在することは、私にとってもはや疑う余地のない当然のことになりました。それからは地球を知り、愛を知り、マーガレットというパートナーや仲間たちに出会い、今日ここにいるわけです。
(西園寺裕夫) 時間が迫ってまいりましたが、先ほど五井平和賞のプレゼンターを務めてくださった遺伝子工学の権威である村上和雄先生が会場にいらっしゃいます。先生は遺伝子研究を通じて、環境や人の思いや感動が、遺伝子を活性化するという、リプトン博士と非常に近いことをおっしゃっていますので、このディスカッションの感想をお聞かせいただければと思います。
(村上和雄) ブルース・リプトンさんのお話を聞いて、大変感動しました。先ほどの言霊の話ではないけれども、知識に加えてリプトンさんのパッションが入っています。
 リプトンさんは細胞、私は遺伝子、違う方向から登っていますが、同じ方向を目指していることに大変勇気づけられました。
 特に科学の分野で、物質を超える働き、存在、力というものを感じておられ、私と大変近い。私もサイエンスとスピリチュアリティのコーディネーターになりたいと思っていますので、その点で大変共鳴、感動いたしました。
 私は今、「心と遺伝子研究会」をつくっておりますが、できれば魂や祈り、潜在意識と遺伝子はどう関連しているのかという大きな問題も研究したいと思っております。できればぜひ一緒にいろいろ仕事をさせていただきたいと思います。
(西園寺裕夫) ありがとございました。それでは最後に、トークセッションのテーマは「明るい未来へのシナリオ」ですので、明るい未来をつくるために、私たち一人一人は何ができるか、会場の皆様へのメッセージも含めてお1人ずつコメントをお願いします。
(西園寺昌美) 一つのテーマについて、科学、ビジネス、精神性の世界と、異なる観点で話したわけですが、ゴールは一つになりました。この感動的な日を私は長い間待っていた気がいたします。
 しかし、素晴らしいお話を聞いても、ただ「そうだ」と感心して終わらせたのでは、変革は起こらないし、意識も変わりません。私が最後に語らせていただきたいテーマは、やはり、一人一人が自己責任を持っていただきたいということです。私たちは、自分自身の意識を変えることによって遺伝子を変え、人生を変えることができる。無限なる能力や素晴らしい可能性は全人類が持っていると思うのです。しかし、その可能性や能力を発揮せず、政治家や医師などのエキスパートに委ねる安易な生き方をしてしまうのが人類の大半だと思います。
 アフガニスタンや中東の紛争、環境破壊を始め、世界で起きていることは、私たち人類一人一人に責任があるのです。自分自身の内面に本来存在している素晴らしい善、愛、真理なるものを改めて見つめ直し、自分にもできるのだという、強い信念によって新しい未来を築いていくのだと思います。未来は人類一人一人が創り上げていくものだと思っています。
(西園寺裕夫) 田坂先生、最後に一言お願いいたします。
(田坂広志) 私は、今日のような科学の最先端の話を聞くと、深い宗教的な感覚に囚われます。それは、最先端の宇宙物理学が語る宇宙の起源の話を聞くときも同様です。
137億年前、この宇宙は「真空」から生まれました。それも、無数に生まれた「ベイビー・ユニバース」の中から奇跡的に生き残ったのがこの宇宙です。そして、この宇宙の片隅に、地球という惑星が誕生し、その上で、生命が生まれ、進化を始めた。
その生命の進化は、人間の心、精神を生み出し、その精神は、潜在意識の世界に広がり、さらに、それらは深く結びついて集合的無意識を生み出していると言われています。
 では、宇宙は、なぜ137億年前に、この壮大な進化の旅に出たのでしょうか。それは、私には、単なる偶然ではなく、深い意味があるように思えます。
 ですから、私は、次の世代の子どもたちへ、「起きることには必ず意味がある」ということを伝えたい。たしかに人類は今、非常に大きな問題に直面しています。しかし、それは人類の意識が進化していくために、深い意味を持って与えられたものであり、この137億年の旅路の彼方には、必ず素晴らしい何かが待っている。そのことを信じ、その願いを込め、我々は、次の世代にバトンを渡していくべきなのでしょう。
(西園寺裕夫) それでは最後にリプトン博士、コメントをいただけますか。
(ブルース・リプトン) 細胞は一人の人間のようなもので、すべての機能が備わっています。いも虫を例に挙げてみましょう。いも虫の細胞の1つがあなただと思って聞いてください。大きく成長したいも虫は、ある日突然食べるのをやめた。細胞同士は神経質なって働きを止め、生物学的に言うアプトーシスという細胞死に至る寸前。しかし、その細胞の共同体には、異なった世界観を持つイマジナ・セルと呼ばれる成虫細胞がいる。彼らの間では、レベルを上げて別の方法で再編成しようという相談がなされ、他の細胞も巻き込みながら今のいも虫よりももっと素晴らしいものをつくり始め、そこから蝶が生まれた。これは変態といい、まさに進化です。
 世界は、蝶になる前のいも虫のようだと思います。危機があるから進化の飛躍ができる。皆さんがこの世界の成虫細胞になり、蝶になってください。そうすれば素晴らしい未来へ羽ばたいていくことができる。その未来は目前にあると思います。

(了)

 
   
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