2006年度「五井平和賞」受賞記念講演

地球文明の目覚めへ向けて

デュエイン・エルジン

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私は若い時から、日本の文化と精神的な叡智に触発されてきました。例えば『ボランタリー・シンプリシティ(自発的簡素)』という本を書くに当たって、わびとさびの考え方、簡素さの中に宇宙の奥深さと神秘さを学ぶという考え方に影響されました。また悟りを開いた心の持つ力を、禅の教えからも学びました。多くのことを教えていただいた日本において、感謝と喜びの気持ちを持って、皆さんと一緒に、より平和で約束された未来に向けて、人類はどのように歩んだらよいかを考えたいと思います。創造的な多様性を包含するような世界を作りたいと思うのです。

まず、最初に皆さんに質問をします。「今、人類家族は何歳ぐらいだと思いますか?」

人類家族の社会的な平均年齢というのは、幼児でしょうか。それともティーンエージャーの10代だと思いますか。それとも成人、あるいは老人になっていると思いますか。人類全体は今、4つの人生の区切りのどの段階にいるのかを、皆さんに考えてほしいのです。これから2分間差し上げますから、お隣の席の方たちと相談してみてください。

(2分間、話し合った後、それぞれの答えを会場の人たちに挙手をして答えてもらう。幼児期または10代と答えた人が多かった)

実は、同じ質問を世界中でしているのです。ヨーロッパでもカナダでも聞いたし、アメリカ、ブラジル、インドでも聞きました。そのほとんど大半の人たちが、人類はまだ10代、ティーンエージャーだという答えを出しました。

人類が思春期だとすれば、今の行動を見て、なるほどと思うかもしれません。10代、ティーンエージャーは、得てして無謀で反抗的ですね。結果を考えないで行動してしまう傾向にあります。人類は、気候の変動、種の絶滅、資源の枯渇など、行き着く結果を考えずに行動しているのではないでしょうか。

またティーンエージャーはグループを作って、仲間でない人を仲間外れにしてしまいますよね。まさに、人類はそれをやっているのではないでしょうか。民族、人種、宗教とか、グループに分かれて、他人を締め出していませんか。ティーンエージャーは、自分の欲求をすぐに満足させたいという気持ちに駆られます。今の人類は、これから生まれてくる次の世代のことを考えないで、自分だけ楽しければいいという生活をしていませんか。

でも、ティーンエージャーにもよい点があるのです。熱意がいっぱいあるし、エネルギーもあるし、活力もあるし、心の中には隠れた偉大さを持っています。チャンスさえ与えられたら、世の中に認められるようなことをしたい、世の中のために役立ちたいと思っている人たちも、皆さんの中にはいるだろうと思います。

世界中で聞いたこの質問の答えから、2つのことが分かります。人類が思春期だというのであれば、今の生き方も仕方がないと思えるかもしれません。しかし、もう1つ考えられるのは、思春期ならば成人に育つことができる、人類として大人になり、生き方や行動を変えることができるということです。世界中のティーンエージャーが、大人になれば行動が変わるように、人類としても、生き方を変えることができる、と。成人になれば、家族である人類のことを思うようになります。意味ある仕事を探すようになります。希望ある未来を作ることに貢献したい、そういう仕事をしたいと思うようになります。ですから、これからの課題は、技術の革新ではなくて、人類社会として成熟すること、人間として、大人になることです。

実のところ、人類は大人になる必要性に迫られています。2020年ぐらいになると、世界中を破壊するような、急速な嵐が人類社会に大きな課題を突きつけると思います。レスター・ブラウン博士が昨年、そのことを話されたと思います。

気候の大変動、食料の不足、安価な石油も枯渇する。動植物が種の絶滅を経験する。途上国において、悲惨な貧困による社会不安に直面する。大量破壊兵器が拡散する。そのほかにもいろいろありますが、全く今までと違うのは、もう逃げ道がないということです。このまま何もしなければ、人類の進化に破綻をもたらします。

しかし私は、人類には、破綻ではなく前進させる四つの大きな力があると思っています。その四つの力で、この世代において、人類の進化を大きく飛越させることができると思います。

その一つは、認識の力です。世界をどう見るか、私たちの世界観が行動を左右します。西洋は、宇宙は生命のない空間と見なします。宇宙が生命のない空間だとしたら、生きている人間の私たちが好きなように使おうとするのも、当たり前なのかもしれません。生命体でない宇宙なら、近代の物質文明は、論理的かもしれません。けれども人間として、人類として成人するのであれば、認識の力を使って、宇宙は動的な生命体だということを理解し、簡素で質素な生活をして、地球のほかの人たちや自然界のことを考えながら、生きることができるようになるはずです。生命体である宇宙の中でみな共存していると知ることが、生きとし生けるものを包含する地球文明の基盤となるのです。

2番目の大きな力は、選択の力だと思います。「私なんかに力がない」と思うかもしれませんが、個人にも、家族にも、社会にも将来を決定する大きな力があるのです。毎日食べる物、着る物、どういう交通手段を使って移動するのか、どういう家に暮らすのかは、私たちが選択できるものばかりです。一人一人の選択が何十億人と集まったら、地球を変える大きな津波を起こすことができるのです。この津波をさらに大きくするためには、希望に満ちた未来のビジョンを共有していくことが必要です。その熱意を共有すれば、新しい文明を作ることが可能になります。

次の三つ目の力は、コミュニケーションの力。人間は自分の気持ちを伝え合う力を持っているからこそ、木の実を採集していた人間が、地球文明を作ろうというところまで進化してきたのです。この話し合いをする力が、明るい未来をもたらす道を作るのです。人類家族の抱える問題、種の絶滅だとか気候変動、これは、話し合うことで解決できる問題がほとんどなのです。インターネットやポッドキャスト、テレビ放送、いろいろなツールを使って、話し合うことができます。歴史の傷を、意識を変えることによって、癒しの光に変えることができます。そうすれば、思春期の不和や分裂を超え、人類としてのより成熟したアイデンティティーを見い出すことができます。人類の目覚めの物語を伝えることができるのです。一緒に新しい未来を作ることができるのです。

4番目の大きな力は、愛の力です。分裂している人間家族には、成熟した大人の愛の癒しが必要です。愛の力は、ほんとに大きな力なのです。富と貧困、男と女、人種と民族、地理、宗教などによって、人類はズタズタに分裂しています。大人の愛、成熟した愛というのは、人をいたわる気持ちです。慈しみの気持ちです。それが、新しい地球文明の基盤となるのです。大人になって成長していく過程で、地球に対する思いやりを持つことができれば、未来の大きな基盤になるのです。目に見えないこの4つの力、選択の力、認識の力、話し合うコミュニケーションの力、そして愛の力、この4つの偉大な力こそ、世界を変えることができるのです。進化の破綻から未来への飛躍に変える力なのです。

結論として、人間の歴史の中で、今は比類なき時期に来ていると思います。必要に迫られて、協力することによって生き延びるか、対立して分解してしまうかという瀬戸際に立っているのです。確かに前途は多難でしょう。失望もあるでしょう。でも歩き続けましょう。途中で失望しても、心を痛めることもあっても、前を向いて歩き続けましょう。これほど刺激的かつ重要で生き甲斐のある時代は考えられないのです。人類として成人する日は、意外に近いのかもしれません。一緒に成人しましょう。明るい未来が待っているのです。

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