第70回講演会

ジェーン・グドール

動物行動学者、自然保護活動家

テーマ

希望の光を未来へつなぐ ~次世代のためにできること~

プロフィール

1934年イギリス生まれ。1960年からタンザニアのゴンベで野生チンパンジーの生態調査を行い、道具の使用をはじめとするチンパンジーの知性や生態を世界で初めて解明した。1977年にジェーン・グドール インスティテュート(JGI) を創設。野生動物の研究・保護、森林や生態系の保全、環境教育など、ホリスティックな活動を行い、現在、日本を含む世界24カ国に拠点を持つ。貧困や教育の問題と環境破壊の負の連鎖を食い止める、アフリカ初のコミュニティ主導型の環境保護プログラム「タカリ(Tacare)」を立ち上げ、成果を上げるほか、1991年に開始したユース主導の環境および人道的プログラム「ルーツ& シューツ(ROOTS & SHOOTS)」は、世界75カ国以上で展開されている。2002年に国連平和大使に任命。大英帝国勲位、京都賞、テンプルトン賞など数々を受勲、受賞。『希望の教室』(海と月社)ほか、著書、主演ドキュメンタリー映画多数。

講演概要

2024度の五井平和賞受賞者で、世界的な動物行動学者、環境保護活動家のジェーン・グドール博士の来日に合わせ、「講演会シリーズ:21世紀の価値観」 第70回特別企画を都内会場とオンラインのハイブリッド形式で開催しました。
グドール博士は、91歳を迎えた現在も世界を巡り、多くの人々に希望を与え、地球のために行動することを訴え続けています。
グドール博士から混迷の時代に生きる私たちに向けた講演を通じて、次世代のために何ができるかを参加者の皆様と共に考えました。

講演録

母の支えが導いた科学者の道

子どもの頃から、動物が好きだったという博士は、幼い頃の母親とのエピソードから語り始めました。子どもの好奇心や探求心を大切に支えてくれる、親や周囲の存在の重要性が伝わってきます。

「私は4歳の時、母が連れて行ってくれたロンドン郊外の農場で、『雌鶏の卵はどこから産まれるのだろう』と、疑問を持ち、母に何も言わずに、鶏小屋を観察しました。4時間待ち続け、雌鶏が卵を産む瞬間を目撃した私は、母のもとへ走って帰り、その光景を興奮しながら話しました。母は叱るどころか、私の話をじっくり聞いてくれました。この体験が、私の〝科学者としての好奇心〟を育ててくれました。

子どもは、正しい答えを教えなくても、自分で答えを探し、間違っても諦めずに忍耐強くなることを学びます。あの時、母に叱られていたら、私の好奇心は潰れていたかもしれません。これはチンパンジーの世界でも同じです。私たちはタンザニアのゴンベ国立公園で、1960年からチンパンジーの研究を続ける中で、親に見守られて育ったチンパンジーは、より良い人生を歩んでいることがわかっています。

私は10歳の時、〝大人になったらアフリカに行って、動物と暮らして本を書く〟と決めました。周りの人は〝お金はどうするの〟と私の夢を笑いました。しかし、母はこの時も『本当にやりたいなら、努力して、どんなチャンスでも掴みなさい。諦めなければ、道は開ける』と、背中を押してくれました。だから私は今、ここにいます」

科学界の常識を覆す発見

アフリカ行きの夢を叶えるため、経済的に余裕のなかったグドール博士は秘書として働いて貯金をし、ついにアフリカへ。ケニアで出会った高名な古人類学者のルイス・リーキー博士より、チンパンジーの研究を任されることになると、やがて当時の科学界の常識を覆す大発見をします。

「雄のチンパンジー、デイビッドが木の枝を加工し、シロアリを捕っていたのです。 当時は道具をつくり、使うのは人間だけと考えられていたので、その姿を見た時、本当に興奮しました」

さらに、チンパンジーと人間には共通点が多いことにも着眼。「子どもは母親と密接な数年間を過ごし、兄弟姉妹の絆も強く、人間と同じ文脈で抱擁などの愛情表現もします。また、男性優位の階層社会をつくり、群れ同士で殺し合う、暗く残虐な一面があることもわかりました。愛や思いやりだけでなく、残虐な面もある。人間とよく似ていると思いました」

人・森・動物を守りたい

リーキー博士に大学での研究を勧められ、ケンブリッジ大学で博士号を取得。その後、再びゴンべで研究を続けますが、アフリカの自然破壊とチンパンジーの急激な減少を知ることで、転機が訪れます。

「密猟や不法取引、環境破壊などが減少の原因でした。私は、何とかしなければいけないと思い調べると、問題の背景には、現地住民の教育不足や貧困がありました。私はそれらを解決しようと、ジェーン・グドール・インスティテュートを設立し、地域主導型の環境保護プログラム『タカリ(Tacare)』を開始しました。

アフリカ6カ国で展開され、持続可能な農業やマイクロファイナンス(小規模金融)を使い、人々は貧困から抜け出すことができました。伐採によって森林地帯から裸になってしまった土地も、タカリの影響で緑を取り戻しています。野生動物のためだけでなく、私たち、そして、子どもたちのために環境を守ることの重要性を多くの人々が認識した結果です」

地球の未来は一人一人の選択で変えられる

日本をはじめ75カ国以上で展開されているユース主導の環境および人道的プログラム「ルーツ&シューツ」も紹介してくれました。
「私は、世界中で希望を失った若者に出会ってきました。彼らは、怒り、失望し、あるいは無関心になっていました。私たちの世代が地球の未来を奪ったと。私たちにできることは何か議論を重ね、人間・動物・環境の全てを救うことができるこのプログラムを立ち上げました。ルーツ&シューツは若者に希望を与え、若者たちは地球をより良い場所にしようと努力し、親や教師にも影響を与えており、希望を感じます」

最後にグドール博士から参加者へ熱いメッセージが送られました。
「私たちは毎日、地球に影響を与えています。どんな影響を与えるかは、私たちの選択次第です。今の世界は、戦争や気候変動、生物多様性の損失、産業化された農業による土壌の劣化をはじめ、多くの問題に直面しており、希望を持つのは難しいかもしれません。

しかし、人間は素晴らしい知力と技術を持っています。再生可能エネルギーを使い、時間をかけ、自然が持つ回復力を手助けすれば、自然は戻ってくるでしょう。不可能と思える問題の解決に不屈の精神で努力を続けている人々もいます。なぜ、私は希望を信じることができるのか。人間は不屈の精神力を持っているからです」

そのモデルとして、21歳で視力を失いながらマジシャンになる夢を叶えた友人のゲーリー・ホーン氏を紹介し、彼からプレゼントされ、常に帯同しているMr.Hの愛称を持つぬいぐるみを掲げました。

講演を終え、参加者に向けて笑顔で手を振る博士に、会場から大きな拍手が巻き起こりました。