2015年度「五井平和賞」受賞記念講演

ソウル・オブ・マネー:献身的な生き方のすすめ

リン・ツイスト

このような賞をいただき、ここに立てることを心から光栄に思い、そして感謝しています。

私は、生涯を通じて、前向きで積極的に活動してきました。何かに対して反対運動をするのではなく、持続可能で誰もが繁栄する世界の実現に向けて、それを妨げているものより、むしろその先にあるビジョンを見据えてきました。人は、自分の生命よりも大きなものに全てを捧げると、個人の願望を超えた大きなことを達成することができます。私もそうすることによって、想像以上の人生をつくり上げることができたのだと思います。

間違ったレッテルが分断を生む

これまで私は、素晴らしい師に恵まれてきました。それは権力や学位のある人たちではなく、私がかつて貧しい人と呼んでいた人たちです。

人は、飢餓や貧困の状態にある人たちを貧しい人と呼びますが、エチオピアやバングラデシュ等でこうした境遇の人々と、土で手を汚しながら仕事をした時に気づいたのです。彼らは、経済的に貧しい状況にあるだけであって、人間として貧しいわけではないのです。むしろ知的かつ創造力豊かで革新的です。なぜなら、生きていくためにはそれらが必要であり、さらに、私たちが一生に必要とする以上の大きな勇気を、一日を生き抜くために発揮しています。

本当に厳しい状況に置かれると、人は内面の豊かさを発揮するようになります。私がかつて貧しいと呼んでいた人たちは、この世界で最も強く、知的で、インスピレーションを与えてくれた教師であり、彼らを貧しい人と呼ぶことは、彼らと自分自身をも貶めることになると気づきました。また、私は、お金持ちと呼んでいた人たちからも多くのことを学びました。彼らも同様にお金持ちという状況だけで豊かな人だと呼ぶと、彼ら自身が自分の価値を信託基金や株価、所有物などで計ってしまい、自らを貶める、また、そう呼ぶ私たちをも貶めてしまいます。

こうした誤ったレッテルを貼ることが、人を混乱させ、分断を生み、その環境に生きている人の本質を見えなくさせているのです。

問題を解くカギはお金と人間の関係に

私は、飢餓撲滅を目指し、ファンドレイザーという仕事を通じて、お金と私たちの関係がいかに機能不全に陥り、狂っているかを学びました。

世界的な文化として、私たちはお金に余りにも多くの重要性、パワーや意味、そして人間の生命以上の価値を与えてしまいました。しかし、これは真実ではなく、お金が人間の生命や自然よりも重要な価値など持たないことは誰もが知っているのに、お金のために大切な家族との関係を絶ったり、熱帯雨林を伐採したり、殺人を犯してしまう人さえいます。

私たちは、生命の価値を讃える文化ではなく、お金の文化に生きてしまっているのです。私は、人生における最大の苦痛の原因の一つが、お金との関係であることに気づきました。人生の中には、お金にまつわる不安や苛立ち、苦しみがたくさんあります。会場の皆さんは違うかもしれませんが、ほとんどの人は、お金との関係を誤解しています。

私は、コーチやカウンセラーとして、世界の億万長者とも一緒に仕事をしてきましたが、彼らは多額の資金を持っていながら、お金との関係に罪の意識や何かが間違っていると感じています。最も豊かな家族でも、お金に起因する家庭不和、依存症、離婚など、多くの問題を抱えていました。その問題は、お金で解決されないどころか、家族に根付く問題を増幅させてしまうのです。

このように私は、仕事を通してお金と人間の関係について深い洞察を得て、その関係を癒すお手伝いをしてきました。そして、20年前、神秘的な導きによって、赤道直下の小さな国、エクアドルの熱帯雨林の奥深くに住む、アチュア族という部族から呼び寄せられました。この時から、私の活動家としての人生は全く新しい次元に入りました。

外部との接触を持たない彼らは、1万年前と変わらない生活様式を続ける古代の部族で、お金の存在も知らず、自然の中で豊かに健康で、美しい生活をしていました。しかし、いずれは外の世界と関わらざるを得ないことを悟り、信頼できる人間を探して接触してきたのでした。そこで私たちは、アチュア族が、自分たちのためだけでなく、将来の生命のためにも森を守れるよう、現代社会のお金に対する固執について理解しなければならないと考えました。なぜなら、自国の公共福祉と繁栄のためとはいえ、熱帯雨林の地下に眠る大量の石油に目を付けているエクアドル政府と対峙しなければならないからです。

彼らは、私たちがお金の概念を教えると、それは食べられないし、狩りもできないのに、なぜそんなに欲しがるのか尋ねてきました。彼らには、全くわけのわからないことだったのです。現代社会の生活で、お金は私たちの意識の大部分を占めています。全くお金と関わりを持たない彼らとの出会いは、大いなる開眼であり、お金との関係を再考する上で新たな学びとなりました。

このような経験から、私は今日のフォーラムのタイトルでもある『ソウル・オブ・マネー』という本を書きました。ご承知の通り、お金に魂はありませんが、私たちには魂があります。お金への魂の託し方次第で、最も崇高な善を実現することもできれば、魂を無視することも、売り飛ばすこともできるわけです。

地球温暖化、環境や社会正義の危機、不平等、精神的な危機など、世界は非常に深刻な緊急事態に陥っています。人類の歴史上、最も重要な時期に、人間とお金との関係を考えることは問題を解く鍵になるかもしれません。私たちは、これほど服従している今の経済が、生態系の一部であることを忘れています。生態系のサービスがなければ、経済は成立しないのに、生態系を経済活動に従属させてしまったために、大きなトラブルに直面しています。私たちは、地球が再生できる以上の資源を搾取し、将来の世代から奪い取っています。それは、誰もが心の奥底ではわかっているはずなのに、実際の行動は間違ってしまっている。アメリカや日本をはじめ、世界で起こっている精神性の欠落という危機のルーツは、私たちの生活様式が、本来の人間性と一致していないことです。生態学的に可能な範囲内で生活しない限り、経済危機は続きます。なぜなら、私たちは返済することのできない生態系のクレジットカードを使っているからです。

私は、マザー・テレサからも多くのことを学びました。意外と思われるかもしれませんが、彼女は偉大なファンドレイザーでした。マザー・テレサが皆さんにお金をくださいと言ったら、ノーとは言えないのではないでしょうか。お金は、人間が4500年前に、物やサービスの公平な分配を保証するために発明したものです。それを知っていた彼女は、本来的なお金の使い方をしていたのです。

今、重要なことは、機能不全に陥ったお金との関係を立て直し、お金よりも人間関係が優先され、破壊と恐怖ではなく、愛と生命のためにお金を使うことです。

お金は世界に愛を運ぶもの

デヴィッド・スタインドル=ラストというベネディクト会派の修道士を60年間務めた人がいます。彼は、世界の感謝の象徴、生きるアイコンだと思います。所有する物はほとんどないのに、充足しているという感謝の心で生きている、私が出会った中で最も幸せな人の一人です。彼は、惨劇や災難、様々な関係の決裂など、人生に何が起こっても感謝できることに焦点を当てれば、全てが変わっていくと教えています。

今日は、大好きな彼の教えを皆さんにお伝えしたいと思います。

掌は、指を広げると、与えるという手の形になります。これは、受け取る手の形でもあります。しかし、何かをつかもうと指を曲げてくると拳の形に変わります。この拳は、全ての暴力の源であるというものです。つまり、何かを所有しようとして求め始める時に拳ができ、暴力の始まりとなるのです。これは本当に美しいたとえだと思います。

真の繁栄は、蓄積によってもたらされるのではなく、分かち合いや協力、感謝、奉仕をすることで私たちのものになるのです。このことを知っているのに、私たちの文化では全く違うことを教えています。私は、ファンドレイザーであることを心から誇りに思っています。人々にお金を求めることは、高次元の行動だと思います。

全ての人が、世界の金融資源というものを恐怖、戦争、過剰消費、環境破壊ではなく、愛に再分配したいと望んでいます。死、破壊、枯渇に向けられている資源を取り戻し、生命の保護、持続可能な生態系のために使うのです。コミュニティの健康と福祉、お互いの幸せや豊かさ、全ての種の繁栄のためにお金を使うのです。

英語のphilanthropist(フィランソロピスト/慈善家)は、人類愛という意味です。私たちは本来皆、人類を、生命を愛する者なのです。お金は、その愛を表すために使うことができるし、愛を世界へ運ぶことができるのです。

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