2016年度「五井平和賞」受賞記念講演

平和への道を開くアフリカの人々

ハフサット・アビオラ=コステロ

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このような賞をいただき、大変光栄に思います。そして、この賞を亡き父と母に捧げたいと思います。

 父、モシュードは、身長が6フィート(約182㎝)もある、とても体格の大きな人でした。心は、その体よりももっと大きく、私のことを何でもできる「スーパーガール」と呼んで、とてもかわいがってくれました。公認会計士であり、アメリカ企業のナイジェリア拠点の社長も務めた父は、常に貧しい人たちに心を寄せ、学校や病院の建設のために多額の寄付をしたり、私たち家族が信仰するイスラム教のモスクをつくったり、キリスト教の教会にも寄付をしていました。

母、クディラットは、経済的な理由で大学進学はできませんでしたが、製薬会社を起業したいという夢を持った、とても聡明な女性でした。そして、父と結婚してから、15年間で7人の子どもを育て上げた後に仕事を始め、いくつもの不動産を取得できるほどに成功しました。

ナイジェリアの民主化を念願していた父は、1993年に大統領選挙に出馬しました。国民は父を支持し、当選を果たします。しかし、当時のナイジェリアは軍事政権で民主化に抵抗しており、父は刑務所に投獄されてしまいます。母は立ち上がりました。取得した全ての不動産を売却して資金をつくり、労働組合、マーケットの女性たち、マスコミなどを集めて、軍事政権から民主政権へ移行すべきだとデモを行い始めます。当然、軍事政権はこれを好まず、母は危険人物としてマークされるようになりました。この時、私はアメリカのハーバード大学の学生でした。意外でしょうが、アメリカ人は、ナイジェリアがどこに位置するかさえ知りません。私に心配や同情の声をかける人は誰もいないだろうと、遠く離れたアメリカで一人、絶望感を抱えていました。

そんなある夜、署名運動をしている学生たちに偶然声をかけられました。それは、ナイジェリアで逮捕された大統領候補者の釈放を求めるもの、つまり父の釈放を求める署名運動だったのです。私は、涙が溢れて止まりませんでした。彼らの協力は大変心強く、私は、彼らと共にニューヨークをはじめ、アメリカのほぼ全ての州、さらにカナダ、ヨーロッパなどを回り、父の釈放を訴えて歩きました。しかし、父の投獄から3年後、母がナイジェリアの商業の中心地ラゴスで暗殺されてしまいます。私が大学を卒業する2日前のことでした。さらに、母の死から2年後、父までもが釈放直前に不慮の死を遂げてしまったのです。

この両親の話は、皆さんには悲劇に聞こえるかもしれません。しかし、私はこれを勝利だと考えています。人間は誰もが、精神の輝きを持っています。この精神の輝きを表現しようとする人が、世界にどれだけいるでしょうか。父と母には、危機を目前に立ち上がる勇気がありました。彼らは何も恐れなかった。彼らは勝利したのです。だから私は悲しくはないのです。

人が輝けるためのサポートを

私たちの国には、日本では考えられない危機が存在しています。北西部では、過激派ボコ・ハラムの活動が依然活発です。また、この地域の女性たちで高校に進学できるのはわずか4%足らずで、ほとんどが低年齢で結婚、出産します。しかも出産時に命を落とす場合が多く、10万人の子どもが誕生したら、その裏で2000人もの女性が亡くなっています。

私には、自分を信じる大切さを教えてくれる母がいました。しかし、母親を亡くした子どもは、誰に大事なことを教わればいいのでしょう。私は、女性がこの国のために立ち上がれるよう支援し、行政の仕事を通して、女性が医療を受けられ、教育が受けられるよう、学校なども建設しています。

しかし、さらに必要なことがあります。それは、女性と男性がパートナーシップを築けるようになることです。同じアフリカのアンゴラの例をお話しすると、アンゴラでは内戦終結時に、国中の地雷を除去したはずが、大勢の女性や子どもたちの足が吹き飛ばされたり、死亡する事故が起こりました。なぜなら、地雷除去の計画に、井戸へ行ったり、枝を集めるために女性が歩く道が想定されていなかったのです。女性と男性の連携は非常に大事であり、そのためにも女性は力を身に付けなければなりません。

アフリカは、人類が誕生した地でありながら、多くの搾取が行われ、教育、暴力、病気などの問題に溢れてしまいました。しかし、解決策は必ずあります。来年は、エチオピアでアフリカ全土から女性が集う国際会議を行います。日本の皆様も参加して、私たちと共にアフリカを助けるための解決策を見出していただきたいと思います。

最後に、今日は皆様へ、ある詩を紹介したいと思います。

人間の心は神に至れるもの
暗く寒いかも知れぬ だが今は冬ではない
何世紀にも亘る悲惨は破れ 砕け 動き始めた
雷は氷原の雷 雪解け 洪水 始まりしばかりの春
神に感謝する
今こそ過ちと至る所で出会う時
人類がこれまでにない大きな魂の一歩を歩み出すまで消え去ることはない
あらゆる事柄はいまや魂の丈 取り組みは神への探求
汝いずこに進む
目覚めに何千年も要したが
さあ お願いだから目覚めてくれ

まさに今、世界は、お互いにエンパワーし合うことや、真の人間の精神性、真の開発、真の民主主義といった新たな可能性に満ちています。人間の輝きに、人種は関係ありません。 しかし、人間が輝きを発揮できるかは、周りからのサポートがあるかどうかにもかかっています。男性は女性をサポートしてほしいと思います。女性をサポートすれば、男性もサポートされるのです。私が世界中を回り、母が全てを投げ売って父を救おうとしたように、全てを与えるのが女性のやり方です。

皆様方にも、是非、我々をサポートしていただきたいと思います。そうすれば、世界は、互いを称え合える、精神性の高い、素晴らしい新たな世界になると思います。今の世界は、人々が傷つけ合っています。一緒にこの傷を癒そうではありませんか。

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