2017年度「五井平和賞」受賞記念講演

「バイオニアーズ:自然と人間の心から起こす革命」

ケニー・オースベル

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バイオニアーズ(Bioneers)というのは、リーダーのコミュニティです。この素晴らしい賞を、そのコミュニティを代表していただきます。

今日の問題は、あまりに大きく複雑で、一人の人間の力では解決できません。今、私たち一人一人がリーダーであることが求められています。リーダーは、様々なコミュニティの中からどんどん生まれますが、自然界でもそうであるように、優秀なソリストが何人いても、最終的にはシンフォニーが重要だからです。バイオニアーズは、農業における生物多様性を蘇らせることを目的に私が設立した有機種苗会社、シーズ・オブ・チェンジ社の投資家である友人と、1990年にニューメキシコ州の温泉を訪れていた時に誕生しました。

私はジャーナリストとしてそれまでに出会った、深刻な環境問題や社会問題にビジョンを持って取り組み、現実的な解決策を見出しているイノベーターたちについて熱く話していました。

彼らは、皆、問題はつながり合っていることを理解し、全体の問題として解決しようとするシステム思考家で、38億年の進化の歴史を持つ自然を先生として見ている人たちです。

彼らのことを生態系に学ぶパイオニアという意味で、バイオニアーズと名付け、彼らのことを世界が知れば、きっと変化が起きるはずだと熱弁する私に、友人は1万ドル提供するから、彼らを招いて会議をしようと言ったのです。これが、「バイオニアーズ」と環境会議「バイオニアーズ・コンファレンス」の始まりです。

最初は250人だった参加人数は、3000人規模へ成長し、28年が経った現在、バイオニアーズたちのアイデアや実践例は主流となり、世の中の考え方にも影響を与え始めています。世界が「緊迫」から「緊急」の時代となった今、ブレークダウンからブレークスルーへ舵を切る必要があります。 そのために、私たちは考え方を変えなければなりません。生命の網の目のようなつながりを尊重し、互いを尊重し、将来の世代を尊重しなければなりません。これからの時代は、人類の文明の中で最も重要な時期になるでしょう。そして、今こそがチャンスなのです。

世界では、バイオニアーズのようなイノベーターが政治、経済、社会、技術など、あらゆる分野において進歩的なモデルを示しています。人間の創造力は、問題解決に焦点を当てるようになったということです。これは、全ての生命の価値や人間の多様性を大切にしようとする考え方への変化です。自然を大事にすることは人間を大事にすること、人間を大事にすることは自然を大事にすること。つまり、「自然と人間の心から起こす革命」なのです。

人間は自然の一部

バイオニアーズは、ネットワークをつくり、様々な課題、運動、人々をつなげることで、人間の多様性を尊び、生命のワンネスを祝うグローバルな知の文化をつくろうとしています。そして既に存在する良いモデルや解決策を拡散し、政治、経済、産業、社会に大きな変革を起こそうとしているのです。完全にクリーンなエネルギーや環境に負荷のかからない農業、自然に優しい様々なデザイン、バイオミミクリー(生物模倣技術)、流域の保全、社会的・経済的な正義、人種、ジェンダーの正義、民主的なガバナンスを地球規模の運動として育てようとしています。

バイオニアーズからの示唆をいくつか紹介しましょう。

真菌工学の研究者ポール・スタメッツは、ディーゼル油で汚染された土壌をキノコが数週間で浄化することを発見しました。さらに、そのキノコは自然が持つ自己修復力についても教えてくれました。キノコは腐り始めると虫に食べられ、虫は鳥に食べられます。鳥は種を運んでくるので、汚染された土地に植物が育ち、生命のオアシスに生まれ変わりました。また、2種類のキノコによって有毒なサリンガスの浄化にも成功しました。この成果に、化学兵器の処理方法を探していた国防総省も関心を寄せました。スタメッツは、国の安全保障に関わることとして、キノコが豊富に生育する太平洋の北西部の国有林を、伐採の危機から守るべきだと訴えたそうです。

私たちがこれから迎えるのは、情報の時代ではなく、自然の時代です。生物学者で、自然の仕組みをヒントにしたイノベーション、バイオミミクリーの提唱者であるジャニン・ベニュスも、人間は自然の一部であることを理解すべきだと言っています。そして、自然は太陽光をエネルギー源とし、多様性に支えられ、協力を是とし、根本から積み上げ、全てのものをリサイクルし、生命に優しい環境をつくる。これが生命の法則であると訴えています。

今日、自然から学ぶ科学は急速に普及され、技術、産業、経済、社会システムに応用されています。しかし、私たちが直面しているのは技術的な問題ではなく、人間の問題です。私たちは、文明の終盤で自然の世界と、そして、自分たち自身と衝突しようとしています。しかし、これは勝ち目のない戦いです。今こそ、人類総動員で平和をつくるために協力しなければならないのです。

真の平和は癒しから

セネカ族の研究家で私の師、ジョン・モーホークから聞いた話を紹介しましょう。

北米の五大湖畔の5部族が血で血を洗う戦争を行っていた時代に、20歳にも満たないある若者が立ち上がり、暴力と復讐の連鎖を止めるための協定をつくろうと、村々を説得して歩きました。しかし、武器を捨てるのは敵が先だという姿勢を皆崩さなかった。そこで、若者が伝えたことは、敵も自分たちと同じように、幸せに暮らしたいと願っている。必要なのは共通項を探すことだ。暴力のない世界だけでは平和とは言えない。正義が必要だ。正義を達成するには、全ての利益を考える努力を継続しなければならないのだと。こうして、各部族の酋長に働きかけ、後のアメリカの憲法と民主主義に示唆を与えたイロコイ連邦が誕生しました。

さらに、人間が進化の鍵穴を通り抜けるには、私たち自身と社会が負っている傷を癒やすことも忘れてはなりません。これについては、心理療法士のエド・ティックの話が相応しいと思います。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)で苦しむベトナム戦争の退役軍人の診療をしていたティックは、1970年にPTSDの苦しみの本当の原因はストレスではなく、過去のトラウマ(ギリシャ語で精神の傷という意味)にあると気づきました。 ティックは、退役軍人と共にベトナムを訪れ、かつての敵と会わせ、謝罪と許しを請い、心の傷を癒やしていきました。

ある時、彼らは、マイライの町を訪れました。マイライは、世界中の人たちが訪れる美しい平和の町ですが、かつては村人がアメリカ軍人によって虐殺された殺戮の地でした。虐殺された一家の中で、唯一生き残った75歳の女性に会いました。彼女は心に深い傷を負っていましたが、元軍人が訪れると「私の痛みは問題ではありません。私がこうしてあなた方の手をとり、許すことによって、あなた方を癒すことができる。それが重要なのです」と言ったのです。

ベトナムのマーブルマウンテンという聖なる場所に、当時野戦病院として使われていた仏教の寺院があります。爆撃の傷跡を残す寺院の外には、次の教えが書かれています。「憎しみによって、憎しみは越えられない。愛によってのみ越えられる」と。これは古代からの法則です。地球と私たちが負っている傷は、同じ傷です。平和をつくり出す人々は幸いなり。

ニナ・サイモンズ

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バイオニアーズは、比較的小さな非営利団体ですが、多様な社会的活動がつながる場として発展してきました。地球の反対側で世界平和に貢献し続けてきた五井平和財団が、このように私たちの活動を評価してくださったことは、とてつもない確証をいただいたことになります。

私たちは、破壊が進む生態系やコミュニティの現状を維持するだけでは飽き足りません。あらゆる生命の再生を目指し、自然と人間のコミュニティに健康と活力を回復させたいと考えています。生態系が多様であるほど、自然界は強く、活力に富むように、人間社会も多様性に富むことで繁栄がもたらされます。問題の解決に対しても同様に、様々な分野、文化、世代、あるいは切り口、特に自然を大切にする先住民の伝統的な知恵に重点を置き、多角的で革新的なアプローチを求めてきました。その基本として、人間は自然という素晴らしい、洗練されたデザインの天才の謙虚な学び手でなければならないという考え方を持っています。

1994年にインドの環境活動家であるヴァンダナ・シヴァは、バイオニアーズとは、自分たちの些細な行動も他の人や地球上の多様な生き物に影響を与えていること、そして自然界は、土壌の栄養素の循環にも、水の循環にも限界があることを理解し、多様な種が生きるために設けられたルールの中で、節度を持って生きる人々だと述べました。さらに、「地球の生命は一つの家族」、「生命の民主主義」という言葉をヒンディー語で紹介し、これは単に多様な人間の文化を指すのではなく、自然に存在する全ての生命を尊重する意味だと語りました。なぜなら、生命の網の中で生きる全ての存在には、果たす役割があるからです。

私の中で、人間と自然は一つであることがだんだん明確になっていきました。私たちの肉体は、植物や動物、真菌と同じ元素やDNAでできており、生物学的にも精神的にも皆つながっています。 地球上では、ダイナミックな循環が時を越えて行われており、今日、私たちが飲んでいる水は、かつてクレオパトラの風呂水だったかもしれません。

バイオニアーズとは、全ての人間の社会正義と平等を追求し、種や生態系を保護する人々のことなのです。

誰もがバイオニアーズになれる

バイオニアーズを設立してから10年ほど、私は、バイオニアーズとは、ステージでスピーチするイノベーターたちのことだと思っていました。それが2001年に、今は亡き伝説の市民権活動家J・ L・チェスナットが講演した時、全ては変わりました。

彼は、アメリカは人種的、社会的正義を実現し、本当の意味での民主主義へ歩みを進めている。それは皆さんのような献身的で進歩的なバイオニアーズのおかげだと、会場にいる全ての人のことをバイオニアーズと呼んだのです。目の覚める瞬間でした。そして、この時からバイオニアーズは、ステージ上のイノベーターだけでなく、会場に集う老若男女、会議の中継を見ている人たち、そして、何千という違う形で地球と人間の関係を癒やそうとする全ての人のことになりました。

彼は、これまでの女性や有色人種、先住民や地球に対する私たちの扱いは、全て根は同じ負の遺産であり、誰もが征服や搾取、抑圧、軽蔑、暴力などの傷を等しく負っていると言いました。

私は、その影響は無意識に、個人の感情や身体、経済、政治、環境など、あらゆる分野に表れていると思うようになりました。しかし、私たちは幸い、コミュニティと人々のつながりの力を知っています。また、反省をし、選択をする能力も持っています。違いによって分断するのではなく、共通点を探すことで健全な社会を取り戻していくことができます。さらに、人間は自然によって自分自身を取り戻し、自然が与えてくれる無限の癒しや導きを感じ取ることで、癒しを促進することができます。

バイオニアーズは、こうした考え方を元に大きく発展していきました。一見、無関係と思われる問題を横に並べ、芸術やセレモニーなどと合わせることで、全てがダイナミックに関わり合う、大きな生命システムの一部であり、私たちは皆、その文脈に組み込まれていることを表現してきました。

直面する大きな課題には、私たち全員の力が必要であり、真の協力や連携、コミュニティの関係は必定です。敬意を持って、違いに橋を架けることができるかが、新たな文明へシフトするカギです。

性別を問わず、人間としての能力を自由に発揮する

また、世界に変化を起こすには、自分自身を変える必要があります。

私は、ジェンダー格差や人種差別など、アメリカ文化でまだ癒せない傷を自分の中に見つけ、自分の中から平和を築こうと努めています。その過程で強く感じたのは、女性に対する男性の優位性が、宗教や人種、文化の違いなどと同じくらい、平和や平等の障害になっていることでした。

近年の研究では、人間の精神に最も深く根づいている偏見はジェンダーだと言われています。私も多くの女性と同じように、劣等感や屈辱、脅威を味わってきました。これらは女性に対する先入観となり、自分自身の選択肢や道を制限してきたことにも気がつきました。

世界に根付く様々な差別は、改善の兆しを見せていますが、まだやるべきことはたくさんあります。

女性のリーダーシップに投資すること、そして、個人の生活、組織、社会において、男性性と女性性のバランスを取り戻すことが、世界を変えるためには不可欠で、種として求められています。女性のリーダーシップやジェンダーの公平性が高まると、経済は繁栄し、健康や教育、国の安全保障は向上します。女性の教育や生殖権が向上すれば、人口の増加が抑えられ、二酸化炭素の排出は減り、気候変動の速度を遅らせることにも効果があるでしょう。

私たちは、誰もが男性性と女性性を持っています。固定観念にとらわれず、人間の全体性を取り戻し、男性、女性を問わず、人間としてのあらゆる能力を自由に発揮すべきです。そして、力で支配するのではなく、変化を共に創り出す力へと進化させることです。中米の先住民が言うように、人類という鳥は、あまりにも片翼(男性性)だけで長く飛びすぎました。

大地や先祖から、肉体と心から、夢と直感からの導きに耳を貸す謙虚さを私たちが持てますように。共にビジョンと勇気を持ち、男性性と女性性、受動と能動、陰と陽のバランスが私たちの中に取り戻せますように。母なる地球ガイア、地球を流れる甘い水、塩辛い水、地球を撫でる風や雲、地球を浄化させ、修復させる火、そして、この聖なる家を共有している、大小の全ての生きものと私たちとの関係が愛に満ち、長きに亘りますように。聖なる感覚を取り戻した世界に導かれ、全ての種の未来の子どもたちが平和に生き、正義が回復し、健康が守られる繁栄した世になりますように。

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