2018年度「五井平和賞」受賞記念講演

未来をつくる教育

全ての人が環境のために

Her Royal Highness Princess Lalla Hasnaa

私は2014年に「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」に参加するため、名古屋にまいりました。我々がモロッコでもESDを推進してきたからです。そこで西園寺理事長にお目にかかりましたが、当時、本日のこのような形につながるとは予想もしておりませんでした。

私たちは、共通の理念に導かれ、パートナーシップを結びました。今後、この協力関係をより密なものに、より具体的な形にしていきたいと思っております。2017年、西園寺会長と西園寺理事長をモロッコ王国の首都ラバトと近郊のスキラットにあるエコスクールにお迎えすることができました。

先ほどご覧いただいたビデオでもお分かりかと思いますが、エコスクールの子どもたちは、平和や持続可能な発展という価値観を元に、環境保護に対して最善の取り組みを主体的に行っています。

皆様、子どもたちを教育するということは、将来の計画を立てることであり、彼らがこれからの世界において生きていけるよう準備させることではないでしょうか。そして、彼らが守っていく世界を形づくる助力となる、これが教育だと思っております。この新しい教育は、新しい地球の見方であり、また、自分自身や他者との関係を見つめ直すことでもあります。

人口が増加し続ける地球の環境を守ることは、地球を共有することを学び、他者を大事にすることであり、我々が求める永続的な平和を築くことにもつながります。即ち、変わることを学ぶということなのです。環境を守るということは、無意味な競争をしないことでもあり、共有、連携、尊敬に立脚した関係の構築を提唱することです。つまり、平和に資する関係づくりをすること、それが環境を守ることにつながります。

環境教育・意識啓発は、終わりのないミッション

2001年にモハメッド6世国王により、モハメッド6世環境保護財団が創設された時、当然のこととして、教育と啓蒙活動をミッションに掲げました。これは高尚なミッションであり、大変な努力を要するものであります。

環境保護という大きな課題は、あらゆる市民が関わらなければ達成できません。そうなりますと、何よりも教育というものが優先されなければなりません。これは私の母親としての確固たる信念ですが、母親なら誰もが、調和に満ちた平和な世界で、子どもたちが豊かな人生を送れるよう助けたいという本能を持っています。環境を守り、地球における素晴らしい多種多様性を守るためには、ルールや規則、場合によっては制約も必要だと思います。

しかし、重要なのは、これまでと全く異なる世界の創出に貢献することだと思います。その世界とは、協力に立脚し、環境保護の責任が全ての人々にあまねく共有され、皆が等しく努力をする新しい世界です。

教育や意識啓発には、多大な時間とエネルギーを要します。人々に繰り返し同じ行動を取るよう訴え続けなければならない終わりなきミッションです。できるだけ短い時間で変化を加速させるには、子どもたちに適切な教育を施し、これまでと違う文化を根付かせ、世界や他者との新たな関わり方ができるように育んでいく方がより有益で効果的です。そうすることで、次世代は、世界に対するアプローチが変わり、地球を守るために正しい判断を下せるようになるでしょう。

しかし、これは長期的なミッションです。私どもの財団では、設立当初より、エコスクールや環境に関するヤングレポーターのプログラムを導入してきました。20年近くが経ち、いまや75万人を超える子どもが、環境保護に関する教育を受け、何千人もの学生が環境問題に関する調査と報告をしてきました。また、我々はあらゆる層の人々の環境意識を高めることに力を注ぎ、政府、政治家、企業、そして市民団体と緊密に協力をしてまいりました。

私どもの財団は、閉鎖的で孤立した環境で活動しているのではありません。全くその逆で、モハメッド6世国王が重点を置いている、国の制度的枠組みの中で活動を推進しています。それは、能動的で刺激的な環境であり、地域社会の主体的な参画と市民団体の活動を促すものであります。

環境保護はシンプルな行動を積み重ねるしかない

私どもの財団が提唱しているのは実践的で倫理的なアプローチです。実例を挙げて教えることに勝るものはありません。

学校においても環境評価報告書を作成し、菜園や小規模な灌漑システムをつくり、電球は低エネルギーのものに切り替える。水道の蛇口に水圧を低減させる装置の設置、ゴミの分別、リサイクルなどを徹底しています。どれもシンプルな行動ですが、環境保全の大切な第一歩です。環境保護は、簡単でシンプルな活動を子どもの頃から繰り返し、大勢の人たちが行うことによって、その影響は決定的で持続的なものになります。

私たちは誰も責めたりしませんし、過剰な負担を負わせることもありません。代わりに人々の意識を高め、行動の変化を促します。環境問題に関心を持ってもらい、理解を求めていく方が、強制するよりも効果的で優れていると考えるからです。

例えば、実例を示すことによって、子どもたちはエコスクールで学んだ環境の概念を生活の中で実践できるようになります。都市の中心部に、歴史的な庭園を再生し、緑のスペースを設けることで、子どもたちが自然と触れ合える機会を与えたり、ハイキングコースをつくることにより、環境の概念を楽しみながら学べます。マラケシュのヤシ林の保護や植林を通じて、自分たちが暮らす場所を再生し、自然を守ることを体験し、海岸に連れて行くことで、海岸線がいかに脆弱であるかを学ぶことができます。

私たちは国内で活動を展開していますが、同時に、長年に亘り、主要な国際機関の支援を得て、国際協力も積極的に積み重ねてまいりました。本日、私は皆様方の前でこの素晴らしい賞を受賞させていただきます。次のより大きな目的として、協力関係を深め、世界を環境により優しいものにしていくために共に行動していきたいと思います。

環境に対する適切な行動を促進することは非常に重要です。我々の二つの財団は、この非常に崇高な目的に向かって取り組んでいます。そして、五井平和財団の「生命憲章」に、全面的に賛同しております。

私たちは、平和に貢献する人を増やしていくという同じ目的に向かって尽力しています。同じ大義に向かって仕事をしていることを誇りに思います。私は、アル=マグリブ(最西端の国)、日没する王国の娘です。日出ずる国、日本にやってきて、この賞を受賞いたします。私たちの二つの国が力を合わせれば、日が沈むことはありません。

この永遠に輝き続ける光が、永遠に続く平和の光となりますように。この賞と共に、両国の子どもたちに捧げたいと思います。

 

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