2020年度「五井平和賞」受賞スピーチ

より良い世界をつくるために「考え、行動を 」

ジャック・アタリ

Jacques Attali

この受賞の知らせを聞き、大変驚き、また光栄に感じました。歴代受賞者の方々と肩を並べることができ、大変嬉しく思います。

私はこれまでずっと、どのようにより良い世界をつくっていくかということに取り組んできました。そのために私は思索と執筆、そして、行動を起こしています。考えずに行動することは誰かの言いなりになることであり、また、考えるだけで行動に移さなければ、自分の考えが実社会に意味のあるものなのかを確認できません。「考え、行動する」。この両方が必要です。

ですから私は、まずより良い世界をつくるための概念を考えた上で行動を取るようにしています。また、その概念を多くの書籍を通じて社会に発表しています。その上で、私はこれからの社会にとって重要な二つの概念に取り組んでいます。

一つ目は、「ポジティブな社会」という概念です。
私が言うポジティブな社会とは、次世代のことを考える社会です。次世代の利益を考えなければ、私たちは未来に悪夢をつくってしまいます。なぜなら、気候変動、廃棄物処理、貧困、そしてパンデミック(感染症の世界的流行)など、次世代は数々の問題を抱えて生きなければならないからです。政府、企業、NGO、個人など、誰もが次世代の将来のために今、投資しなければなりません。

次世代のために行動することは、利他的な行為ではありますが、実は最も合理的で自己中心的な行為であることを認識していただきたいと思います。次世代は、私たちの将来を支えてくれる存在です。今の私たちから世界の統治・開発を引き継ぎ、より良い未来をつくってもらえるよう、我々は今から彼らを育てなければならないのです。

二つ目は「命の経済」という概念です。
本当の意味でポジティブな社会を築きたいなら、命の経済の分野に焦点を当てることが必要です。私は、こうした考え方に基づき、国レベル、国際レベルで行動するよう努めています。そして、何と言っても、国際レベルの法と秩序を構築すべきだと考え、国際的な機関づくりに関わってきました。

まず初めに東ヨーロッパ、ロシアを市場経済につなげるために欧州復興開発銀行をつくりました。1979年には貧困や飢餓と闘う国際的なNGOを、その後は先端技術開発に世界的に取り組むプログラムEUREKAをヨーロッパに共同設立しました。

98年には、低所得層や貧困層向けにマイクロファイナンス(小口融資)を提供するNGOポジティブ・プラネットを設立しました。このNGOでは、ポジティブな社会の概念を世界に広め、現実化するために世界各地でフォーラムを開催し、アイデアや実践事例の共有を行っています。

また、日本を含むOECD(経済協力開発機構)加盟国のポジティブ度を測定し、政府や企業の投資活動がよりポジティブになるよう働きかける一方で、貧困層が持続可能でポジティブな企業、つまり経済的、社会的、生態系的、民主的な発展に貢献する企業を始められるよう支援しています。この活動はフランスで始まりましたが、アフリカ諸国、中東、アジアへ広がり、JICA(国際協力機構)ほか、日本のパートナーなどの協力を得ながら、人々が事業を起こして貧困から脱出し、世界で活躍できるようなプログラムを提供しています。

ポジティブな社会や利他主義は、単なる概念ではなく、現実的なものであり、それが実現できた時に、より良い世界をつくることができるのだと思います。利他主義とは、最も合理的な自己中心的な行動であり、他の人の役に立つと同時に自分の利益にもなるのです。不寛容主義が目立つ現在の世界において、自分と違う考え方を有する人たちを理解し、寛容になれる利他主義こそが悪夢を回避できるのです。

五井平和財団が、私たちの活動に光を当ててくれたことに感謝します。これから協力し合えることを期待しています。

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