この重要な集まりで、お話しする機会を与えていただき、ありがとうございます。
政治、社会、そして環境の面でも、私たちが非常に暗い時代を迎えているのは事実です。二つの大きな戦争があり、アフリカでは15の紛争が起きています。世界中の多くの国で不安やデモや暴力が増加しています。持てる者と持たざる者の間の格差が拡大し、人種差別やジェンダー差別も広がっています。国民を迫害し、人権を侵害する政府も多く存在します。
そして私たちは、気候変動と生物多様性の損失という二大脅威に直面しています。気象パターンは変化し、嵐、洪水、干ばつ、熱波、山火事が悪化しています。そしてそれらに最も苦しんでいるのは貧しい国々や先住民です。戦争や暴力、差別から逃れる人々だけでなく、気候変動による難民の数も増えています。
私たちは大気、水、土地を汚染し、廃棄物の山を築き、地球の天然資源に不合理で持続不可能な要求を課しています。石油やガスの採掘は広大な生息地を荒廃させ、鉱物の採掘、特に違法採掘は、それと同等かそれ以上の破壊をもたらしています。
化石燃料の無謀な燃焼に加え、森林伐採や、炭素を貯蔵するその他の生態系の破壊は、蓄積されたCO2を大気中に放出し、地球を覆い太陽の熱を閉じ込める温室効果ガスを膨張させています。氷と氷河は溶け、海面は上昇しています。永久凍土が溶けて、猛烈な温室効果ガスであるメタンが大量に放出されています。
工業化された農業は大量の二酸化炭素を排出し、化学農薬や除草剤、人工肥料を使用した単一栽培は、生物多様性に壊滅的な影響を与え、私たちが依存している土壌そのものを破壊しています。動物の工場式畜産は、収容された動物たちに言いようのない残酷さをもたらしています。動物たちは、それぞれに苦しみや不満、恐怖や痛みを感じているのです。それに、植物性タンパク質を動物性タンパク質に変換するには、ますます希少になりつつある淡水が大量に必要であり、動物の餌を育てるために多くの土地が開墾されています。さらに、動物、特に牛は、消化の過程で大量のメタンを排出します。
ご存知のように、生物多様性の喪失は、農地、都市、庭など、私たちの身の回りのいたるところで起きています。あらゆる場所で、動植物の生命が危機に瀕しているのです。状況はあらゆる面で深刻です。そして残念なことに、環境保護に取り組む人々が増えている一方で、既得権益を維持しようとする企業や政府の腐敗や権力によって、土地の健全性を回復するのに役立つはずのプロジェクトの多くが頓挫しています。
多くの人々が希望を失いつつあるのは驚くことではありません。無気力になって何もしない人もいます。何をしても仕方がないと。ある人は怒り、時には暴力的になり、またある人は落ち込んで、やがてうつ病にかかってしまうこともあります。自殺率は世界中で上昇しています。
ご存知の通り、私は長年チンパンジーの研究をしてきました。チンパンジーは人間に最も近い親戚です。そして多くの点で私たちと似ています。しかし最大の違いは、私たち人間の知性の爆発的な発達にあると私は考えています。チンパンジーや他の動物は、かつて考えられていたよりもはるかに知的です。しかし、太陽系の神秘を探求できるのは私たち人間だけです。
ではなぜ、この最も知的な種が地球を破壊しようとしているのでしょうか? 地球は私たちの唯一の家なのです。私たちの賢い頭脳と、愛や思いやりが宿る人間らしい心の間に、何らかの断絶があるのかもしれません。
将来の世代にどのような影響を与えるのか、それを考えた上で物事を決定した先住民の知恵を、私たちは失ってしまいました。残念ながら、ほとんどの大企業や政府の方針は、環境保護を犠牲にして短期的な利益や個人的な利益を追求することです。同じことが、先進国の大多数の人々にも言えます。
天然資源に限りがあり、人間や家畜の数が増え続けている地球上で無限の経済成長が可能だという考え方が、いかに致命的な欠陥を抱えているかを理解し、目を覚ます時です。それは自然界をますます破壊することにつながります。私たちは今、「第6の大絶滅」の真っただ中にいるのです。そして、私たち人間が自然界の一部であり、食料、水、空気、あらゆるものを自然界に依存していることを、すべての人が理解することが非常に重要なことなのです。
私たちは健全な生態系に依存しています。すべての生態系は、相互に依存し合う動物種や植物種が複雑に混ざり合って成り立っており、それぞれが役割を担っています。その生態系からより多くの種が姿を消せば、やがて生態系は崩壊します。そして間違いなく、生態系は世界中いたるところで崩壊しているのです。これは私たちにとっても良くないことです。恐ろしいことですが、私たち人類でさえ絶滅を免れることはできないのです。
自然の中で過ごす時間が必要だということを理解することはとても重要です。これは私たちの精神的、肉体的健康に非常に有益であることが証明されています。特に幼い子どもや、不安やうつに苦しんでいる人にとっては重要です。実際、日本やカナダでは、医師が自然の中で過ごすという処方箋を書くことができます。これは、精神的な問題や身体的な問題を抱える患者のためのものです。そういう意味でも、都市に自然をもたらす都市緑化はとても重要なのです。
時間はまだ残されています。私たちが団結すれば、気候変動や種の喪失を少なくとも遅らせることはできると思います。希望はあります。事実、私たちは再生可能エネルギーに取り組み、小規模な工場式農業や環境再生型農業、パーマカルチャーに目を向けています。植物ベースの食生活への移行を進め、木を植え、原生林を守り、絶滅寸前の種を救うために戦っています。
私たちは多くの学校で環境教育を行っています。そして、地域社会と協力して、環境を破壊することなく生計を立てる方法を見つけ、野生動物が移動するための回廊を作っています。また、あらゆる場所で貧困の緩和にも取り組んでいます。人々は自らの環境フットプリントについて考え始め、自分たちが毎日地球に影響を与えていることを理解し、生き方において賢明な選択をしようとしています。私たちが地球に与えたあらゆる問題を解決しようと闘っている人々が存在します。
しかし、最も重要なのは、GDPではなく、自然界の健全性と人々の幸福と安寧を最優先する意識・考え方を生み出すことです。今日のような分断された世界では、そのような世界を創造することは不可能に思えるからです。持続不可能なライフスタイルに歯止めをかけ、貧困、人種差別、偏見、無知、政治的分断、そして戦争を抑制しない限り、それは不可能です。そう、戦争をなくさなければならなりません。新しい価値観に基づく世界の創造は、各国が取り組むべき目標です。長期的に見れば、それが唯一の前進の道なのです。
若者の多くは変化を熱望しています。だから、私たちの優れた知性を働かせましょう。協力し、パートナーシップを結びましょう。そして、私たちの頭と心を連携して働かせましよう。そうして初めて、私たちは人間の真の潜在能力を発揮することができるのです。 何よりも、希望を失ってはなりません。時間をかけて、多少の手助けをすれば、自然は私たちが破壊した場所にも戻ってくるでしょう。絶滅の危機に瀕した動物たちにも、もう一度チャンスを与えられるでしょう。すべての人にとってより良い持続可能な世界を創造するという目的に、多くの人々の知性が間違いなく向かおうとしています。そして、若者たちが問題を理解し、行動を起こす力を与えられたときの決意とエネルギーは、確かに私に勇気を与え、希望を与えてくれるのです。
最後に、このような賞をいただけて大変光栄です。本当にありがとうございました。