【開催報告】中高生キャリア支援プログラム「私のコンパス」(スピーカー:公文和子 医師、シロアムの園(ケニア)代表)

公文和子

より良い世界をつくるために、国内外の様々な分野で活躍する方々のライフストーリーや活動から、多様な視点や考え方などを学び、自分と世界の未来について考えるきっかけを提供する、中高生キャリア支援プログラム「私のコンパス」(第2回)を3月31日(木)にオンラインで開催しました。

アフリカ・ケニアで障がい児の療育施設「シロアムの園」を創設・運営する小児科医の公文和子氏から、国内各地はもとよりアメリカ、シンガポールからも参加した中高生約70人が、「いのちの価値」をテーマに話を聞きました。

テーマ

いのちの価値とキャリア形成─いのちの重さは誰が決めますか?

日本で生まれる・ケニアで生まれる、障がいがある・ない、学校の勉強ができる・できない、運動ができる・できない。私たちはそれぞれ全く違ったものを持って生まれ、自分とは違う人たちと関わり、様々な経験をしながら生きています。そのようなそれぞれの人生の中で、自分と他者のいのちをどのようにとらえ、どのように生かすのか、そして、その中で一人ひとりの人生を豊かにすることについて皆さんと一緒に考えます。

スピーカー

公文和子(くもんかずこ)

プロフィール

和歌山県生まれ、東京育ち、北海道大学医学部出身、クリスチャンの小児科医。2000年イギリスにて熱帯小児医学を学び、東ティモール、シエラレオネ、カンボジアでの医療活動を経て、2002年JICA(国際協力機構)のエイズ専門家としてケニアに赴任。以降、ケニアに在住し、種々の仕事に関わった後、2015年ナイロビ郊外に
シロアムの園」を創設。シロアムの園は、障がい児や家族に対する療育やケア、社会的・経済的な自立支援、地域社会の障がいに対する理解の促進など包括的支援事業を行っている。

日本で多くのいのちに出会い、ケニアに渡ってからは栄養失調、エイズなどの感染症、貧しさの中で生きる人々と関わり合う中で、公文氏は10年以上、「自分は何をすればよいのだろう」と考え続け、ある時、障がいのある子どもたち、中でも重度の障がいを持つ、当時13歳の少年の素晴らしい笑顔にいのちの輝きを感じ、障がい児たちのために生きることを決意。シロアムの園の設立に至ったと、自身の経験を話してくれました。

また、ケニアでは、不十分な医療体制が原因で障がい児が多く誕生すること、社会保障や福祉制度がほぼないため、治療費が高く、多くの障がい児は必要な医療が受けられないこと、彼らへの教育の機会が少ないこと、さらに、障がいは罰当たりといった迷信による差別や偏見など、国や環境、文化をはじめ様々な違いが、多様性ではなく、不公平の問題になることを説明しました。

後半は、シロアムの園に通う二分脊椎の障がいを持つ少年、ジョセフ君を取り巻く環境を動画で見ながら、彼の人生がより良くなるために必要なことを考えました。

「まずは、ジョセフ君が自分のいのちを大切だと思うこと。そして、できることをたくさん見つけていくこと、将来の夢や希望を持つこと、自分の可能性を考え、人との関わりの中でそれを広げていくことも必要です。しかし、これらは、ジョセフ君だけでなく、皆さんが生きる上でも必要なことですよね。国や肌の色、身体的な事情など、違いだけではなく、たくさんの共通点にも目を向けることで、皆の人生に必要なことを一緒に考えていくことができると思います」と語りました。

さらに、「〝何かができる・できない〟ではなく、全てのいのちの価値は等しく、愛されるべきものであり、いのちは目的を持って生まれて来ています。他者と共に生きる時に、それを考え、生き方に表してほしいと思います。そして、多様性という違いを増やしながら、不公平を減らしていける社会になることで、皆が素晴らしい生きがいを持ち、皆のいのちが輝く社会になると思います。これから様々なことをいろいろな角度から考え、今一緒に生きている人たちを大切に、何より自分を大切に生きてください」と、参加者たちへエールを送りました。

質問タイム

参加者 皆が幸せになることが一番だと思いますが、今までも実現しなかったし、誰かが幸せになると、誰かが不幸になるという意見も聞きます。全ての人を幸せにするのは、本当に難しいことだと思いますか。

公文 とても難しいことだけれども、不可能ではないと思います。幸福の価値観は人それぞれ違いますが、誰かの幸せが、他の誰かを不幸にする幸福は、本当の幸福ではないと思います。幸福とは何かを社会の皆が考える必要があると思います。

参加者 自分たちでは解決できない社会問題に直面しても、子どもたちのために働けるモチベーションは何ですか。

公文 一番は子どもたちを好きだと思う気持ちです。また、社会に問題は起こるものです。問題を乗り越える力を誰もが持っているし、自分は一人ではなく、仲間もいてくれます。そして、日本の障がい者制度の歴史がそうであったように、ケニアでも障がい者の家族や関係者が声を上げ続けていけば、変わっていくという希望を持っています。

参加者の感想

福祉は特定の誰かが有利になるためではなく、皆が幸福を得るために設計されるべきだということがわかりました。実現は難しいかもしれませんが、微力ながら、苦しむ人たちを思える支援者に将来なりたいと思います。
他人が自分に与える影響を考えたことはあっても、自分が他人に与える影響は考えたことがなかったので、これから考えていきたいと思いました。
遠い国の現状を現地の方から直接聞き、自分が今まで、どれだけ受け身、無関心、思考停止しながら知識を吸収してきたか気づくことができました。