【開催報告】中高生キャリア支援プログラム「私のコンパス」(スピーカー:瀬谷ルミ子 認定NPO法人REALs(Reach Alternatives)理事長)

瀬谷 ルミ子

より良い世界をつくるために、国内外の様々な分野で活躍する方々のライフストーリーや活動から多様な価値観・選択などを学び、自分と世界の未来について考えるきっかけを提供する、中高生キャリア支援プログラム「私のコンパス」。

春休みの3月27日(水)、国内各地、シンガポールから参加した中高生39人が、認定NPO法人REALs理事長の瀬谷ルミ子氏から、現在の仕事に至るまでの道のりや、専門である紛争予防と平和構築について学びました。

テーマ

争いを防ぎ、平和を築く─
最前線で起きていることと、私たちにできること

戦争や危機が続くなか、世界と日本はどうなっていくのか、自分たちに何ができるのか。
そんな問いを高校生の時に抱いたことをきっかけに、現在までに中東・アジア・アフリカの紛争地域において、元戦闘員の武装解除、テロ予防、争い予防の取り組みを行ってきました。
その経験から、紛争の最前線で何が起きているのか、紛争予防と平和構築はどのように実現可能か、現場の実践を踏まえて共に考えます。女性と若者が果たす役割についてもお話しします。

スピーカー

瀬谷ルミ子(認定NPO法人REALsリアルズ (Reachリーチ Alternativesオルタナティブズ)理事長)

プロフィール

中央大学総合政策学部卒。英国ブラッドフォード大学紛争解決学修士号取得。過去にルワンダ、アフガニスタン、シエラレオネ等にて国連PKO職員、外交官、NGO職員として勤務。専門は紛争地の平和構築、治安改善、兵士の武装解除・動員解除・社会復帰支援。現在はREALsにてアフガニスタン、ケニア、南スーダン、ソマリア、トルコ、シリアで紛争とテロの予防事業、女性を紛争解決の担い手として育成する事業、緊急支援などに携わる。著書『職業は武装解除』(朝日新聞出版)、高校英語教科書『CROWN English Communication Ⅲ』(三省堂)に支援活動掲載。

紛争予防の仕事に至る道のり

今の仕事をする原点は、高校3年の春に、新聞でルワンダ大虐殺の1枚の写真を見たことでした。なぜこんなことが起こるのか。その理由や解決策を新聞や本を漁り探しましたが見つからない。ならば自分が現地で確かめたいと思ったのです。

元々英語が好きだったため、国際交流イベントなどに積極的に参加してルワンダに詳しい信頼できる人を探し、大学3年の時に、1カ月間一人でルワンダへ。しかし、現実には自分にできることがないこと、役に立つためにはそのためのスキルや経験が必要だということを痛感して帰国し、NGOでインターンをしたりしました。

専門性を身に付けたいと留学したイギリスの大学院を卒業する頃、学生時代に関わったルワンダを支援する日本のNGOの現地駐在員に。専門にすると決めた元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(以下、武装解除)を調査するため、実際に武装解除が行われていたシエラレオネにも自費で渡りました。レポートを寄稿したことが縁となり、国連のPKOでシエラレオネでの武装解除、その後、アフガニスタンでも外交官として武装解除を担当しました。

武装解除の仕事は、和平条約が結ばれた後に兵士たちが再び戦闘行為に走ることなく、平和な社会で生きられるようにするための教育や職業訓練などです。兵士は武器を放棄する交換条件に罪を許され、被害者や遺族たちは不正義と理不尽を平和のために受け入れます。紛争地での平和とは、人々の血と汗と涙で出来上がっているのです。

2023年の世界の争いによる死者は分かっているだけで約17万人、実際はこの5倍以上だと言われます。難民・避難民は1億人超。争いは多くの人の命を奪い、大事な人を亡くした人の憎しみは何世代先まで続きます。「紛争の予防に取り組もう」。私は15年前に国連PKOを辞め、現在のREALsに参加しました。

紛争地で争いを防ぎ平和を構築する方法とは

REALsは紛争予防の活動に特化していますが、活動地域で災害や人道危機が発生した時は緊急支援も行います。その中で特殊な独自の支援は、タリバンが復権したアフガニスタンの人たちの国外退避です。命が狙われている人を助けるのは本当に大変な仕事です。しかし、2021年当時、私の元へ次々に届く命のSOSに、独自で退避支援を始めました。

細かいことは言えませんが、タリバンの検問や包囲網をかいくぐり、外交官や各国議員などの培ってきた人脈を駆使し、現時点までに308人が退避でき、1000人以上に安全に住める隠れ家など生活面での保護支援を提供しました。

争いを防ぐために大切なことは、紛争やテロが起こる前に必ずある予兆をキャッチし対策を取ることです。例えば、若者がテロ組織に入る前の予兆は、テロ組織の動画を頻繁に見る、言動が攻撃的になる、金回りがよくなるなどです。対策は、予兆に気づいた時に安心して相談できる窓口の設置、また、テロの勧誘を避ける、テロや武装勢力から抜け出すための支援、そして、争いの予知と対策を現地の人々ができるように育成することです。

地道な取り組みに感じるかもしれませんが、一度のテロで最大500人が犠牲になったこともあります。テロ組織に入る人を一人防ぐだけで、数十人の命を守ることができます。対立が激しい地域では、紛争解決人の育成をします。南スーダンの難民キャンプでは、対立していた三つの民族のリーダーを育成し、共存が実現しました。今では彼らに調停の依頼がくるまでになりました。

特に近年、争い予防の担い手として、育成に力を入れているのが若者と女性です。例えば、私たちの支援でテロ組織を抜けた青年は、人を救う側になりたいと、若者に体験を話し、勧誘に応じないよう働きかけるリーダー的存在になっています。女性については、世界の和平プロセスに女性が参画すれば、平和の持続率が3割上がることが分かっているので、そのための取り組みも行っています。

今のガザ、ウクライナの状況を見ると、私たちにできることは何もないのではないかと思うかもしれません。でも、私たちは全てをやり尽くしたわけではありません。

私は、「選択肢」と「行動」を大事にしてきました。皆さんには、自由とたくさんの選択肢がある。自由に人生をデザインできる権利を最大限に生かし、自分がこれだと思う道を切り拓いていってください。

参加者の感想

国際平和貢献へのプロセスだけでなく、ニーズがあるのに誰も取り組んでいないことに挑戦する、自分の関心や得意なことを発信することなど、人生において大切なことも学べて良かった。
どの国でも若者が重要で、今後の世界を変えていく人材だとわかりました。私も身近なところから一歩を踏み出し、世界につなげていきたいです。