
より良い世界をつくるために、国内外の様々な分野で活躍する方々のライフストーリーや活動から、多様な価値観・選択などを学び、自分と世界の未来について考えるきっかけを提供する、中高生キャリア支援プログラム「私のコンパス」。
春休みの4月2日(水)、スピーカーに迎えた、ユナイテッドピープル株式会社代表取締役の関根健次氏のドキュメンタリー映画を通じて平和の実現に挑戦する姿に、シンガポール、中国からもオンライン参加した中高生約50人が学びました。
テーマ
映画で世界の課題解決を!
~人に感動を与える映画の力を使い、平和で持続可能な世界をつくる挑戦~
気候危機、戦争・紛争、そして飢餓・貧困など、私たちが生きる現代、待ったなしの多くの問題に直面しています。しかし、それらの多くは私たち人類自身が生み出した問題です。
であれば、私たち自身が解決できるはずです。そんな問題意識を持ち、ユナイテッドピープルは、「映画が、人に感動を与える力」を使い、世界の課題解決を目指しています。
このような事業を行おうと思ったきっかけは、大学時代に世界半周の旅の途中に、思いがけず紛争地ガザ地区で衝撃的な体験をしたからです。
起業した経緯をお話ししつつ、希望ある未来に生きるために何ができるのかなどをお話しします。
スピーカー
関根健次 ユナイテッドピープル株式会社代表取締役/映画プロデューサー
プロフィール
ベロイト大学経済学部卒。2002年ユナイテッドピープル株式会社を創業。ネット募金サイト「イーココロ!」などの運営を経て、2009年映画事業を開始。2011年より国際平和映像祭(UFPFF)を毎年ピースデー(9月21日)に開催。2021年のピースデーにワイン事業「ユナイテッドピープルワイン」を開業。映画『もったいないキッチン』プロデューサー。
講演要旨
大学生の頃から60カ国以上を旅してきた中で、まず皆さんに伝えたいのは、「世界は本当に美しい」ということです。大学生時代は、フランス人の親友とワインをつくり、日本に紹介することが夢でした。しかし、卒業旅行でエルサレムを訪れた際に一変します。私は偶然出会った日本人女性に、ボランティアをするガザ地区へ遊びに来ないかと誘われ、不安もありましたが、「安全だし、皆日本人が好き」と聞き、足を運びました。
ガザは「天井のない監獄」と呼ばれる過酷な場所ですが、私を見ると皆、笑顔で声をかけ、電気や食べ物が不足する中で、お茶や菓子をふるまってくれました。明るく、優しく、逞しく生きる人々の姿に、先入観を打ち砕かれ、紛争地でも変わらぬ日常があることを実感しました。多くの人と対話する機会があり、現地で働く医師に「安全な場所で働く選択肢もあるのでは」と尋ねると、「自分たちが去ったら、誰が傷ついた人を助けるのか」と、使命感に満ちた言葉が返ってきました。
また、子どもたちに将来の夢を尋ねると、医師や教師など、人の役に立ちたいと答える子が多い中、一人の少年が「爆弾をつくってユダヤ人を殺したい」と言いました。彼は4歳の時に、目の前で叔母をイスラエル兵士に射殺されたのです。「同じ悲しみを抱える人を増やすだけだ」と、説得しましたが覆すことはできませんでした。
彼と出会ってから「戦争や憎しみはなぜ起きるのか、自分は平和のために何ができるのか」と考えるようになり、戦争や紛争、気候変動や食糧、人権など、様々な世界の課題の解決を目的に、26歳でユナイテッドピープル株式会社を創業しました。初めはインターネット募金の仕組みをつくり、支援を必要とする地域へ届けていましたが、争いは止まず、再建と破壊が繰り返される現実に直面し、別のアプローチを模索するようになりました。
ある日、「映画には感動を届ける力があり、感動には人を動かす力がある」。そう確信し、世界の課題を描いたドキュメンタリー映画を世界中から見つけ、配給する事業を始めました。誰もが自由に上映会を開催できるサービスの提供や、映画に描かれた世界の現実が遠い国の出来事として終わらないよう、視聴者同士が気づきなどを共有し、行動へつなげる「シネマダイアローグ」を推奨しています。この対話の場から、様々な行動が広がっています。
例えば、ガザの人々の日常生活を描いた『ガザ 素顔の日常』を母親と見た女子高生は、「自分の半径1.5mにいる人から変えていきたい」と、地元・母島と父島で上映会を開き、島民の7%が参加。北九州の高校生たちは、映画にまつわる写真展との同時開催を企画し100人以上を動員しました。難民の旅を描いた『ミッドナイト・トラベラー』がきっかけで、アフガニスタン難民の救済活動が行われたり、アパレル産業の問題を取り上げた『ザ・トゥルー・コスト』を観て、環境に配慮するファッションブランドを立ち上げた大学生もいます。
『私は憎まない』は、イスラエルの砲撃で娘を失ったパレスチナ人医師が、憎しみの連鎖を断ち切って共存しようと訴える作品です。私は昨日までイスラエルとガザの国境地帯を訪ねていました。現地では、一昨年からの紛争で平和活動家の身内を亡くしたイスラエル人女性と出会いました。彼女は、「パレスチナとイスラエルの間に平和が訪れることを望んでいる。平穏が戻ったらガザの国境に行き、がん治療を必要としているガザの子どもたちをイスラエルの病院に運びたい」と話してくれました。
どちらの国にも、平和を願う人々がいます。平和を望む人たちが手を取り合い、どうすればこの状況を変えられるか考え、行動する先に、平和な未来があるのだと信じています。
「宇宙から見た地球は美しかった。そこには国境の傷跡はなかった」。最後に皆さんに、このシリア人の宇宙飛行士の言葉を贈ります。
質疑応答
参加者 様々な対立がある中で、国籍やアイデンティティへの捉われを超えて、相手のことを許す、また、正しさに気づいていくことについて聞かせてください。
関根 これまでの旅の中で、日本人という理由で暴言をかけられるなど、いろいろな体験をしてきました。しかし、言動には歴史などの背景が必ずありますから、そのことを理解し、相手に一人の人間としての尊厳や命を祝福しようという姿勢を持てるとよいと思います。