
人生が思い通りになることはめったにない。立ち止まって考えてみれば、自ずと分かるだろう。生命は宇宙規模である。私たちが人生の出来事をコントロールできないのは明らかだ。宇宙は138億年の歴史を持つ。私たちを取り巻く生命の流れは、私たちが生まれた時に始まるわけでも、死ぬ時に終わるわけでもない。刻々と私たちの目の前で生起する物事は、何十億年もの長い年月をかけ、あらゆる力が作用しあった末に生まれた奇跡なのである。にもかかわらず、私たちは、物事は自然の力が創造するものではなく、自分の思い通りになるはずだと信じ、人生で起こる出来事をコントロールし、決定しようと奔走する。緊張、不安、恐怖が多いのも無理はない。
普段、私たちは目の前の現実よりも、頭の中の声を重視する。「今日はキャンプに行くから晴れてほしい」、「お金が必要だから、給料が上がってほしい」など。こうした図々しい要求は科学的な根拠ではなく、個人的な希望に基づいていることに気づいてもらいたい。私たちは知らず知らずのうちに、人生の全てにおいてこれをやっている。自分の好き嫌いに合わせて世界が動くと思い込み、思い通りにならないと、きっと何かが間違っている、と考える。それは困難を伴う生き方だ。常に人生と闘っているかのように感じるのはそのためだ。
しかし、周囲で起こる出来事を前にして、無力でないのも真実である。私たちには、意志の力が与えられている。心の奥底から「こうありたい」と思い、頭と心と体を使って外界に働きかけていくことができる。だが、あくまで自分の願望を押し通そうとすれば、自分を取り巻く人生の現実と闘わなければならない。その闘いに勝てば、私たちは幸せを感じ、ほっとするが、負ければ、傷つき、ストレスに晒される。ほとんどの人は、物事が自分の思い通りになればいい気持ちになるので、人生のあらゆることを絶えずコントロールしようとする。
しかし、本当にコントロールしなければならないのだろうか? 実は、放っておいても人生がうまく展開していくという証拠はたくさんある。惑星は軌道上に留まっているし、小さな種は巨大な樹木に成長する。地球上の天候パターンは何百万年もの間、世界中の森林に水を供給してきた。たった一個の受精卵がかわいい赤ちゃんに成長する。こうしたことすべては何十億年も昔から私たちの理解を超えた力によって遂行され続けている。その力に、私たちの意志は抗おうとしているのだ。目に見えない自然の力が完璧な宇宙の秩序と調和を生み出しているとするなら、自分が働きかけなければ何も良いことは起きないと考えるのは本当に理にかなっているのだろうか? 他にいい呼び方がないので、私はこれを「サレンダー・エクスペリメント(身を任せる実験)」と呼んでいる。
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マイケル・A・シンガー(Michael A.Singer)
著書『サレンダー』から抜粋。