【開催報告】第5回ESD日本ユース・コンファレンス

教育でより良い未来をつくる

「ESD日本ユース・コンファレンス」は、国内各地でESD(持続可能な開発のための教育)に取り組んでいる、多様な立場の若手リーダーたちが出会い、つながり学び合い、相互理解を深めながら教育の新たな潮流を創り出していく場です。日本/ユネスコパートナーシップ事業として、文部科学省、日本ユネスコ国内委員会、公益財団法人五井平和財団が開催しています。

2014年に「第1回ESD日本ユース・コンファレンス」が開催されて以来、毎年多くのコラボレーションやプロジェクトを生み出してきた、ESD日本ユースの輪を更に広めるべく、2018年10月13・14日、名古屋市において、「第5回ESD日本ユース・コンファレンス」が開催されました。名古屋市は、ESD日本ユース・コンファレンスが実施される直接のきっかけとなった、2014年11月のESDに関するユネスコ世界会議の開催地であり、今回は岡山市での「第3回ESD日本ユース・コンファレンス」に続く、東京以外での開催となりました。

教員や研究者のみならず、NPO/NGO、学生、行政、自治体、企業など、日本各地でESDに取り組んでいる多様なステークホルダーの18~35歳のESD実践者43名と、過去のコンファレンスに参加した6名の運営サポートメンバーを含む49名のユースが、国内各地より参加し、お互いの知識や経験を共有し、学び合い、これからの日本のESDを牽引するリーダーとしてのビジョンを描き、共同プロジェクトの企画に取り組みました。

参加者たちは、ユース・コンファレンス参加に先立って、SNSとビデオ会議を使って、お互いの自己紹介や「ESDを一言で表す」というテーマで2回のオンラインミーティングを実施した上で当日に臨みました。また当日のプログラム中でもSNSを積極的に使用し、今後もオンライン上で交流できる土台を作りました。

2日間のプログラムは、以下の5つのステップで進行しました。

【第1部】「旅の始まり、足場をそろえる、心をゆるませる」
【第2部】「深くつながる、自分と仲間と」
【第3部】「とことん語り合う、学びあう」
【第4部】「未来のビジョンを描き、私や私たちのチャレンジを始める」
【第5部】「前に進む、終わりは始まり」

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コンファレンス 1日目

旅の始まり、足場をそろえる、心をゆるませる

現代を生きる私たちが抱える様々な課題を解決し、みんなが幸せに暮らせる持続可能な社会を育むためには、どうすればよいのか? そのために「教育」は何ができるのか? そして、自分はその中で、どのような貢献ができるのか?

はじめに、事務局から、コンファレンスの概要説明、第1回から第5回までの経緯、コンファレンス後も含めた事業の全体像などについての共有がありました。第5回の特色は、事前のオンラインミーティングからコンファレンス当日、そして参加者同士で立ち上げたグループでの共同プロジェクトの作成、それをサポートする全国4か所で展開される「メンター相談会&同窓会」、そして2月に実施予定の「ESD日本ユース・プラットフォーム会合」までの、一連の流れであるとの確認がなされました。

2日間のプログラムは、緊張を解きほぐしながらお互いを知るため、「コンセットリックサークル(=同心円)」というアイスブレイキングからスタートしました。はじめは「今、感じていること」「休日の過ごし方」などのお題で少しずつ緊張をほぐしていき、次第に「あなたのことを一番知っている人は?」「あなたがつくりたい未来とは?」「今の気分、コンファレンスに対する期待、不安」といった話題で本質に迫っていき、2日間の「旅」を共にする仲間たちとサークルを一周しながら、ダイアログを交わしました。

「ここにいる仲間はみんな頷いて聞いてくれる。受け入れてくれる」「自分がつくりたい未来って、言語化するのはなかなか難しいな」「ESDについて深く話せる、理解してくれる人がたくさんいて嬉しい」「みんなの力が合わされば、すごく良いものが出来そう」等、初めて出会った仲間同士のいろいろな「想い」が溢れる時間となりました。

後半は「足場をそろえる」パートとして、ESDについて知っていること、知らないことを参加者同士でシェアし、学び合いました。お互いの知識をシェアし、足場を揃えたことで、このコンファレンスで自らが得たい学びや進みたい方向を、具体的に描くことができたようです。

深くつながる、自分と仲間と

2つのアイスブレイキングと昼食を挟んで、午後最初のパートは、小グループに分かれ、自分や仲間と深く繋がるためのストーリーテリングの時間。それぞれのESD活動のメインテーマ、きっかけ、チャレンジを乗り越えた体験、課題・目標等を共有しました。

自らがESDに関わることになったきっかけに関するエピソードに留まらず、「今までどんな人生を歩んできたのか」「なぜ、今ここにいるのか」等、まずは自分の心と真っすぐ向き合って自分の心とつながりました。その後、それぞれのストーリーをホームグループのメンバー同士で語り合いました。仲間のストーリーを聞いて、仲間の心とつながる深い対話の時間となりました。

同じ「ESD」というキーワードで集まった49人。しかし、49人が49通りの全く違うストーリーを持っている、まさに「多様性の集まり」でした。お互いのストーリーの共有を通じて、チーム内の相互理解や絆が深まっていきました。

参加者たちからも「ここにいる全員がとてもアツい!」「話していたらあっと言う間だった」「フィードックを返してくれて嬉しかった」「話してみて、自分のことを振り返ることができた」等、自分自身や同じ志を持つ仲間たちと深くつながれたことについて、ポジティブな感想が多く寄せられました。

とことん語り合う、学びあう

6人の有志によるピアラーニング・ワークショップ(お互いに学び合うための分科会)の時間があり、参加者はそれぞれ希望する分科会に分かれて、とことん語り合い、学び合いました。

ピアラーニング・ワークショップ(分科会)
  • 人権への気づきを促す ~ご近所さんゲーム~
  • そうだ!ESDティーチャーになろう!
  • 「サステナまちづくりすごろく」体験会(超短縮版)
  • 国際社会が注目している熱帯泥炭地を体感してみよう!
  • 「家族」を通して考える社会課題解決コミュニティ作り
  • 「因果関係を使って複雑な問題を解きほぐしてみよう!」

どの分科会も参加者同士が深く学び合い、とても盛り上がりました。同じ「ESD」に取り組む仲間でも、日々取り組んでいることは実に多様で、多角的な視点から学び合うことができました。

続いて大手広告会社プロデューサーで、「複業実践家」の倉増京平氏による『~イイコトやろうとしているのに、うまくチームが作れない~ともに戦ってくれる仲間の作り方』と題するリーダーシップ育成講座が行われました。倉増氏より、相手と共感・共鳴し合い、周りの人々を巻き込みながら、仲間や賛同者を増やしていくために、「相手の弱み」を「自分の強み」で補い、とりあえず仲間に加わってみてはとの提言がありました。

夕食を挟み、有志が他の参加者たちと共に話し合い、探求したいテーマを提案し、そのテーマに関心のある参加者たちが集い語り合うOST(オープン・スペース・テクノロジー)方式の座談会が行われました。

座談会テーマ
  • なんでユースなん?
  • ESDの「知恵袋」を作ろう
  • 発達障害が活きるには?
  • 社会活動×永続性
  • 学生
  • 教育と地域活性化
  • 学校教育こうなったらいいのにな
  • 資本主義の限界
  • 夢と希望を与える環境学習
  • YouTube×ESD・SDGs

参加者たちは、それぞれの関心のあるテーマのテーブルに移動しながら、グループ・ディスカッションを行いました。

1日目の最後は、「参加者のみんなで探求したいこと、話したいこと、やってみたいこと」を設定しました。初めて出会ったメンバーとは思えないほどの濃い一日となりました。全体会を終えた後も、各自の部屋に戻ってテーマをSNSで共有し合う等、活発な意見交換は続きました。

コンファレンス 2日目

未来のビジョンを描き、私や私たちのチャレンジを始める

2日目は、まず文部科学省国際統括官付ユネスコ振興推進係長の田村謙治氏が、『持続可能な社会の実現に向けたユースへの期待』というテーマで講演しました。ESDの本質やSDGsを取り巻く動向、日本政府としてのユースへの期待等について、参加者が疑問に感じていたことを中心に、具体的に分かりやすくお話しいただきました。

ここからは、参加者全員で【未来のビジョンを描く】パートが始まります。そのために、まずは「タイムマシン」に乗って、「10年前にはなかったけど、今ある・起こっていること」を振り返りました。そして、自分たちが描きたい未来のイメージを、少しずつ膨らませていきました。

その後、参加者たちは「私たち一人ひとりの活動が花開いた時、どのような未来がつくり出していけるのか」というお題で、自分の心や仲間たちの多様な価値観と向き合いながら、考えを深めていきました。

2020年、2030年に時間軸に合わせて、「仲間と語り合う中で、やりたいことがいっぱい出て来た。どれを実行したいのかな」「やりたいことはたくさんある、だけど自分にできるかな」「いろんな人と出会って、いろんな価値観と出会って、もやもやしている」「自分の心を向き合うことって難しいなあ」等、一人ひとりがいろんなことを感じ、悩みながら、仲間たちと共に様々な切り口で未来ビジョンを共に描きました。

「より良い未来」を作るためのビジョンを仲間と話し合ったことをもとに、一人ひとりが取り組みたい「MYプロジェクト」を考えました。そして、「MYプロジェクト」の似た者同士でグループになり、お互いのプロジェクトに対しアイデアを伝えあい、具体的なプロジェクト案を作りあげていきました。

続いて、ファシリテーターの嘉村賢州氏(NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事/東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授)より『プロジェクト運営のヒント』というテーマのリーダーシップ育成講座がありました。共同プロジェクトをする醍醐味やチームビルディングについて、自身の体験談をもとにたいへん分かり易く、お話いただきました。

そして、49名の参加者たちが、より良い未来に向けたビジョンや、今後、それぞれが取り組みたい「MYプロジェクト」を共有し、ユースに何ができるのかを、とことん語り合った結果、8つの共同プロジェクトが生まれました。その「MYプロジェクト」と「共同プロジェクト」の内容は全てSNSでも共有され、コンファレンス終了直後から、議論や感想による交流がはじまりました。

1. E(いつまでも)S(しゃべろう)D(どうする? これからの未来) 

意志を確かめ合ったみんなで、心の火を消さないように、かつ和やかに、近況報告をして仲間意識を高めよう!

2. SDGs for Children -子ども向けのSDGsサイト構築- 
現存するSDGsに関するサイトが小中学校では難解のため、教師が教室で使い易く子どもも能動的に学べるようなSDGsサイトを構築する。
3. 子どもに教える!「最高に楽しい『わがまま』な生き方」講座!
子ども達の自己選択力を向上できる力を養っていく。内容としては、ワークショップとメンバーのストーリーテリング。
4. ナレッジ・シェア・プロジェクト

「教育」をキーワードにして、企業や学校、NPO、行政がつながって、子どもの主体的な学びをつくる。

5. わくわくプロジェクト
わくわくを感じてもらうために、教えるのではなく、五感に訴えるツール、企画を各自行い、死んだ目を輝かせる。
6. 稼ぐ地方をプロデュースする
6次産業化に取り組む農家の支援や、地域の特産品の商品開発の支援を通して、自分が稼ぎ、地域に稼ぐ力を身につけさせる。
7. 自分の持っている偏見に気づくワークショップ

誰もが持っている自分の偏見に気づき、その後の態度まで反映させるワークショップの開発と実施

8. いっしょやろう! 今の自分を褒めるための「夢ワーク」
自分の今の行動が、これからにつながっているという実感を得て、今の自分自身を認めてあげるワーク。
方法は、➀「やりたいこと」を書く、②「やってること」をリスト化、③「やりたいこと」と「やってること」を線でつなぐ。誰かと一緒にやることで、自分の見えていない良さにも気づける。

どのプロジェクトも参加者みんなの熱い想いがたくさん詰まっています。この49人だからこそ、この49人にしかできないプロジェクト。具体的な計画はこれから、全国各地で顔を合わせ、オンライン会議などを活用して話し合い、それぞれのプロジェクトが動き出します。

前に進む、終わりは始まり

プログラムの締めくくりとなる「チェックアウト」の時間では、2日間、寝食を共にした仲間たちと円を囲み、「今、何を感じているか」「ここに来てどんな変化があったか」「このメンバーでどんな未来を描きたいか」等、MYプロジェクトや共同プロジェクトの今後のアクションプラン等について、一人ずつ発表しました。

それぞれが自分の心と向き合い、心にある想いを語りました。感じたことは人それぞれ。しかし、参加者たちに共通していたのは、その目線が「自分たちがこれからつくっていく明日や未来を向いている」ことでした。

「終わりは始まり」今日ここがスタートライン。「教育で未来って、本当に変えられる」参加者全員で、未来へ一歩踏み出しました。コンファレンス終了後、多くのユース参加者たちは、名古屋地区のESD実践者との交流会にも参加しました。DESD(ESDの10年)の最終年に世界会議が開催された「あいち・なごや」を中心に活動するESD実践者の方々と、活発に情報や意見を交わしました。

また、翌日にはサイドイベントとして、約半数の希望者がESDの先進的な実践校である名古屋国際中学校・高等学校を視察すると共に、生徒たち対象のワークショップも行いました。

コンファレンス後の継続的な活動

本年11月30日と12月1日の2日間にわたって、都内で行われた「ESD推進ネットワーク全国フォーラム2018」には、約20名のESD日本ユースメンバーが全国各地から参加しました。ESD日本ユースの有志が企画した分科会『ユースの関わり、ユースの巻き込み』では過去参加者たちがファシリテーターやコメンテーターを務めるなど、活躍しました。

更に、12月8日に横浜市で行われた「第10回ユネスコスクール全国大会」においても ESD日本ユースが「どうやって周りを巻き込むか? ~ESDリーダー像を考える~」をテーマに分科会を主催しました。過去のユース・コンファレンス参加者3名が話題提供をし、参加者と共に「様々なステークホルダーを巻き込みながらESDを推進するリーダー像」について考えました。また、展示ブースにも大勢の方々にお越しいただき、ユース世代への注目度の高さと期待の大きさを感じる大会となりました。

現在、各プロジェクトチームが、ビデオ会議やフェイスブック等で連絡を取り合ったり、実際に会合を持ったりしながら、共同プロジェクトの企画が進行中です。また、全国4ヶ所で「メンター相談会&同窓会」が開催されるなど、ESDユースの輪はどんどん広まっています。

そして、2019年2月17日には、「ESD日本ユース・プラットフォーム会合」が予定されており、第5回の参加者だけでなく、過去の参加者、またESDに取り組んでいる全国各地の実践者が集まり、共同プロジェクトの報告や情報交換を行います。ESDユースのプラットフォームは、今後ますます発展していきます。

主催 文部科学省、日本ユネスコ国内委員会、公益財団法人 五井平和財団
後援 環境省、外務省、公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター、公益社団法人日本ユネスコ協会連盟、特定非営利活動法人持続可能な開発のための教育推進会議、日本ESD学会、ESD活動支援センター、中部地方ESD活動支援センター、愛知県教育委員会、名古屋ユネスコ協会
協力 特定非営利活動法人 場とつながりラボhome’s vi

本事業は、平成30年度日本/ユネスコパートナーシップ事業です。