3月2日(土)、平和創造の担い手となる各国の若者リーダー育成のためのコミュニティづくりのプログラムとして、ユース・イベント「非暴力による平和のつくり方」をオンラインで開催しました。
国際ユース作文コンテストの歴代受賞者や近年の応募者を含む、多様な価値観や文化背景を持つ10代から30代の若者144人が29カ国から参加。紛争下のパレスチナからの参加もありました。
彼らは、ゲストに招いた「非暴力と修復的司法※(restorative justice)」のトレーナーで、全米の刑務所で受刑者が暴力の連鎖から抜け出すための支援などを行っているカズ・ハガ氏から話を聞き、非暴力を自分事としてどのように生活の中で実践できるかを考えました。
※修復的司法:犯罪の加害者、被害者、地域社会が話し合うことで、関係者の肉体的・精神的・経済的な損失の修復を図る手法。
カズ・ハガ氏の講演(要旨)
多くの人は「非暴力」を「暴力を振るわない」ことだと考えます。すでに非暴力トレーナーとして活動していた私もマーティン・ルーサー・キング牧師の非暴力哲学のワークショップに参加するまで、真に理解はしていませんでした。
キング牧師の非暴力の教えの中心には、「相互依存」という考え方があります。私たちは、他の人々や地球上の生きとし生けるものと相互依存しており、自分が自由になりたければ、全ての人が自由になるのを助けなければならないというものです。そして、人は決して敵ではなく、悪い人も存在しない、システムが問題なのだということを学びました。
やがて私は、暴力は外で起きていることではなく、自分の心にも存在することを理解し始めました。自分のトラウマを癒せなければ、自分の心を平和にできないし、自分の心を平和にできなければ、世界の平和を創造することはできません。私は自分のトラウマを癒し、他の人々のトラウマを癒す場をつくることで、社会的正義の実現と積極的平和に貢献しようと、25年近く取り組んできました。
非暴力とは、暴力を前に「何もしない」のではなく「何をするか」
キング牧師は「非暴力とは、暴力や対立の状況に直面した時、足を踏み入れる勇気を持つことである」と述べています。つまり、暴力に対して「何もしない」のではなく、「何をするか」、その行動の大切さを説いています。
約60年前、アメリカ南部の大学に初めて黒人学生が入学した時、人種差別主義者の白人たちが暴動を起こし、大学側は暴動の原因を黒人学生の入学にあるとして、学生を退学処分にしました。キング牧師は「これは本当の平和ではなく『消極的平和』だ」と非難しました。物事が静かで穏やかであることを、多くの人は平和だと考えますが、それにより実際の問題は隠され、正義が犠牲になってしまうからです。
多くの人が平和に至る手段として戦争を支持するのも、テロリストは根絶やしにすればいい、悪者とみなした者は投獄すればいい、という発想も別の形態の「消極的平和」です。また、大学や非政府組織、企業などの多くは、人種差別や性差別、不正義について話すことは不快だから問題は何もないふりをして過ごそうと考えています。
非暴力とは、そうした不快といかに付き合っていくかを学ぶことでもあります。行動を伴う積極的平和は、全ての人の正義のために役立つものですが、消極的平和は誰かの平和と正義を犠牲にして成り立っています。積極的平和という暴力の根本原因の解消に取り組むことで、あらゆる対立が解決され、全ての人が最大限の可能性を発揮でき、必要なものを手にできる世界を創造することができるのです。
ハガ氏との対話
Q.川村真妃常務理事
人々の癒しのプロセスにおいて何か印象に残っている体験はありますか。
A.ハガ氏
殺人事件の加害者と被害者の母親の対話が、20年の時を経て実現するのを目の当たりにしたことがあります。対話を望む二人に対して、私はそれぞれが抱えるトラウマを癒せるよう、約半年に亘って寄り添い、支援し続けました。対面が実現した時、加害者は心からの深い謝罪をし、母親は「愛する息子の命を奪ったあなたと、今までとは異なる関係を築く必要があります」と加害者に語りかけました。
キング牧師の非暴力主義は、人を憎み、恨む行為は、自分への暴力行為だと断じています。トラウマを癒す唯一の方法というものはありませんが、謝罪する勇気と、自分を傷つけた相手を許す勇気は、トラウマを癒すことのできる最も強力な方法です。母親はその後、収監者や自分と同じ経験を持つ人々の相談にのり、その活動は彼女自身のさらなる癒しにもなっています。
Q.若者(マラウイ)
私の国では、殺人や略奪が頻発し、内なる平和がありません。私たちには何ができるでしょうか。
A.ハガ氏
単純な答えはありません。しかし、ある研究では、変化をもたらすには、非暴力的な方法は、暴力的な方法と比べて2倍の効果があることが分かっています。また、歴史上、その国の人口の3.5%の人々を動員して、目標が達成できなかった運動はありません。今日聞いた話を共有することで、人々の考えを変えるきっかけになると思います。
Q.若者(パキスタン)
教育を通じて、非暴力的な紛争解決と平和構築をどのように促進できますか。
A.ハガ氏
私が以前働いていた高校では、上級生を非暴力トレーナーとして教育し、彼らが下級生を導くようにしたことで、暴力の発生率が7割減少しました。他校では、玄関に大きなカレンダーを掲示し、暴力事件が発生しなかった日に印をつけ、それが10日間続けば生徒たちが好きなDJを招いて昼食時に音楽を流すなど、平和を魅力的なものと捉えるための様々なアイデアが実践されています。
歴史の授業に、人々が非暴力で変化を起こした史実を取り入れるのもいい。非暴力教育を一般の科目と同様に取り入れる方法を先生に相談してみてはどうでしょうか。非暴力について話し、教えるチャンスは尽きないはずです。
若者たちが学んだ、非暴力による平和な世界のつくり方のヒント
- 「悪いことをする人はいるが、悪人は存在しない」という言葉から、暴力や絶望、苦痛の中にあっても、人は善人になれることを学んだ。(フィリピン)
- 愛と平和のメッセージを広めること、教育を通じて意識を高めることなど、日常生活で非暴力を促進することの大切さに気づけた。(インド)
- 国は違えども、多くの若者が同じ個人的・社会的問題に直面しており、共通点を見出すことはそれほど難しいことではないこと、言葉や行動による暴力は、決して解決策にはならないことを学んだ。(ルーマニア)
若者たちの参加国(29カ国)
アゼルバイジャン、アフガニスタン、アルゼンチン、アンゴラ、イラク、イラン、インド、インドネシア、ウガンダ、ウクライナ、ウズベキスタン、英国、エクアドル、エスワティニ、ガーナ、カザフスタン、カメルーン、韓国、カンボジア、北マケドニア、キプロス、ギリシャ、キルギス、グアテマラ、ケニア、コロンビア、コンゴ民主共和国、ザンビア、シエラレオネ、ジョージア、シリア、シンガポール、スリランカ、タンザニア、ドイツ、トリニダード・トバゴ、トルクメニスタン、トルコ、トンガ、ナイジェリア、ニカラグア、日本、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ブラジル、ブルネイ、ブルンジ、米国、ベトナム、ベラルーシ、ペルー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ボツワナ、ボリビア、マラウイ、マレーシア、南アフリカ、南スーダン、ミャンマー、メキシコ、モンゴル、リベリア、ルーマニア、ルワンダ、レバノン、ロシア
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