【開催報告】中高生キャリア支援プログラム「私のコンパス」(スピーカー:松田文登 株式会社へラルボニー 代表取締役Co-CEO)

より良い世界をつくるために、国内外の様々な分野で活躍する方々のライフストーリーや活動から多様な価値観・選択などを学び、自分と世界の未来について考える中高生キャリア支援プログラム「私のコンパス」。

夏休み中の8月27日(火)、国内各地および中国から参加した中高生69人が、ビジネスを通じて、障害者への偏見や差別意識の変容に取り組む株式会社へラルボニー 代表取締役Co-CEOの松田文登さんに学びました。

テーマ

「福祉×アート×ビジネス」で人々の意識を変える

双子の弟と設立した株式会社「へラルボニー」の社名は、自閉症の4歳上の兄が小学生時代に記していた謎の言葉から付けました。障害は「違い」であって「かわいそう」ではありません。「障害=欠落」という価値観を変えるため、障害のある作家と契約を結び、彼らの魅力的な作品をさまざまなモノ、コト、バショに使うことで、社会に「障害との美しい出会い」を創出しています。
今回の講演では、起業のきっかけや、岩手・東京・パリという国内外の拠点での活動を通し、どのように社会を変えていきたいかについてもお話しいたします。

スピーカー

松田文登 株式会社へラルボニー 代表取締役Co-CEO

プロフィール

1991年岩手県生まれ。東北学院大学卒業後、地元の大手ゼネコンに就職、東日本大震災の被災地の再建に従事する。その後双子の松田崇弥と共に株式会社へラルボニーを2018年に設立。福祉領域をアップデートするため、本社を置く岩手県盛岡市から世界に向けて挑戦している。2019年日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」に選出、2023年第18回ニッポン新事業創出大賞「最優秀賞」「経済産業大臣賞」 など受賞多数。

講演要旨

へラルボニーは、知的障害のある作家たちの「好き」と「得意」が詰まった芸術的才能を「異彩」と定義して、全国各地に様々な形で、人々に触れてもらう機会を創出することで、社会の「障害=欠落」というイメージを変容するためのチャレンジをしています。

私には、双子の弟と、起業するきっかけとなった知的障害のある兄がいます。社名も、兄が好きで繰り返しノートに書いていた言葉から付けました。兄は可哀想と言われることが多く、それは社会側が「障害=欠落」と捉えているからです。できないことにフォーカスするのではなく、生活する上でマイナスがあるなら、ゼロに近づけ、さらにプラスになるようにチャレンジができ、いろいろな人たちの異彩が発揮される社会をつくりたいと思ってきました。

日本の障害者の総数は936万人。しかし、障害者、なかでも知的障害者の平均年収は健常者のそれとは大きな隔たりがあります。障害者が描く素晴らしい作品と出会う中で、「障害者の作品=安価」の仕組みを変えたいと思うようになり、弟と24歳の時に起業しました。

障害のある方と社会を結ぶという意味合いを込め、職人の技術と障害者の作家の作品を掛け合わせたネクタイの生産をスタートすることに。約300社に企画書を送り、電話をかけ、一生懸命説明しましたが、作家の繊細な表現の再現は難しいと断られ続けました。ようやく銀座の老舗「田屋」とのコラボレーションが実現し、本当に良いものづくりを始められる原点となりました。

これまで、日本橋三越や阪急梅田での大規模展示会、外資系ホテルのアートプロデュース、東京駅の一画を彩るなど、作家の作品と出会える機会を多様な形で提供してきました。急に大声を発したりする知的障害の方は、百貨店へ行くのが難しい。でも、へラルボニーが橋渡しをすることで、当事者もその家族も気兼ねなく足を運べたり、ホテルの場合は、バリアフリー設備が拡充されるなど、ソフトとハード両面の好影響につながっています。

本社を置く岩手県盛岡市とは、福祉のインフラづくりを進めており、また、世界的なブランド企業LVMHから革新的な企業と評価をいただけたことを機に、パリにも拠点を構え、グローバルな取り組みを始めました。

障害福祉について検索すると、ネガティブなニュースが多い世の中で、「障害=個性」と捉え直すのは、簡単なことではないと自覚しています。でも、へラルボニーを通じて、障害のイメージが変わったという声をたくさんいただくことができています。今後も多くの方々が新たな視点を持て、障害のある方の家族の不安が減り、希望が増えるよう、挑戦を続けていきます。

将来、皆さんのインターン先や就職先を考える時の選択肢にへラルボニーが加わったり、皆さんと様々な形で一緒にチャレンジできたら嬉しく思います。

質疑応答

問.日本の障害者に一番求められる制度、環境は何でしょうか。
答.障害者への工賃が支払えず廃業せざるを得ない福祉施設があります。私たちは、作家に適切な形で作品の使用対価をお渡しし、彼らの年収を400万、500万にできる可能性があり、目指してもいますが、それが福祉のインフラを脅かす可能性があることも理解しています。障害のある方たちの収入が増えることだけが正義ではありません。制度の前に、福祉に対してどのような考え方をするかが、とても大事です。

問.会社が大きく成長できたのは、松田さんにどんな能力や気持ちがあったからですか。
答.特別なことは何もしていません。それが自分の本当にやりたいことなのかを問いかけ、選択できるかどうか、また、関連イベントには全て参加し、名刺交換をした人に、返信が来なくてもその日中にお礼のメールを送るといった地道なことをめげずに続けられるかどうかが重要だと思います。

参加者の感想

「障害=欠落」の価値観が、知らず知らずのうちに自分にありましたが、お話を聞いて考え方が変わりました。
福祉の立場から起業した経験談を聞き、ビジネスが幅広い分野で様々な人々のためになると学ぶことができました。