
五井平和財団は昨年の夏から秋にかけて、国内外から大阪・関西万博に訪れる来場者に平和意識を広める様々なイベントを開催し、その締めくくりとなる「AI+Compassion(思いやり) Global Forum」を2025年10月2日(木)にアメリカパビリオンで開催しました。(共催:AI+Compassion Alliance)
AI(人工知能)の活用は、軍事分野を最前線にする一方で、すでに人々の生活にも深く浸透しています。この現状を踏まえ、人間と健全かつ建設的に共存するAIのあり方を社会に示し、AIをどのようにデザインしていくべきか。テクノロジー、文化、政策をはじめ様々な分野で活躍するスピーカー、選抜されたAIに携わる学生37名を含む50名の参加者が共に考えました。
各登壇者の提言要旨
本イベントは、多様な要素が調和する「和(調和の輪)」と、立ち止まり振り返りを可能にする「間(時間・空間の間隔)」「侘び寂び(不完全さの美)」の日本の精神を取り入れ、呼吸の循環で演奏する伝統芸能の笙の音色で幕を開けました。
西園寺裕夫理事長は挨拶で、AIを世界平和と人類の福祉のためにどのように有効活用できるか、平和で幸せな世界を加速させる思いやりを増幅する機能をAIに設計する必要があることなどを語ると共に、会場に集う学生、研究者、各界リーダーたちへ、AIに思いやりの精神を根づかせるテーマを積極的かつ継続的に取り組むよう訴えかけました。
理事長の呼びかけを受け、登壇者は多様な角度から提言を行いました。発言要旨を抜粋して紹介します。
シスター・ジェナ博士(神的指導者、作家、ブラーマ・クマリス瞑想博物館創設者)

慈悲について「判断せずに傾聴し、時に距離を保ちながら他者をありのままに受け入れる忍耐」と定義し、人が持つ思いやりは自我によって遮られがちであり、その実践には継続的な内省が必要と強調。AIが優れた聞き手になり得る時代だからこそ、人間が「聴く意思」を持つべきであり、AIは人類の可能性を思い出させてくれるものでもあると述べました。
高橋利枝(早稲田大学文学学術院教授)

AIやロボットを人文・社会科学の立場から分析している高橋教授は、日本社会の視点から、労働力不足に直面する超高齢社会におけるAIやロボット活用の必要性を示しつつ、あくまで「人間の幸福」を中核に据えたイノベーションの重要性を提唱。グローバルな視点と地域に根ざした文化的知恵を融合することで、持続可能で包括的な AI社会を実現できると語りました。
石黒 浩(大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻・特別教授、ロボット工学者)

人間に似たアバターやロボットなどとの対話を通じて「人間とは何か」を問うことで、「人間性」を深く理解できると述べ、AIや技術の進化を恐れるより「教育」と「深い人間理解」による共存の道を探るべきと言及。また、自身がプロデュースした「いのちの未来」パビリオンで、アバターを活用した障がい者や高齢者の新たな社会参加の形を実験中だと紹介し、「好奇心」こそが人間とAIを分かつ重要な特性だと指摘しました。
エディ・ピレック(GAIA(Global Artificial Intelligence Alliance)財団共同創設者)

思いやりに基づくAIを提唱し、和平交渉の経験を持つピレック氏は、AIの問題は技術ではなく、それを使う「人々の心」にあるとし、思いやりは人間だけでなく、自然や未来世代、さらにはアンドロイドなどを含む地球全体に向けられるべきと訴えました。 そして、日本の「和」と「間」の概念がAI開発の哲学的基盤となると述べつつ、技術力は弱い存在を守るために用いられるべきだと主張しました。
アマー・イナム(Cognisee AI 創業者)

生成AIの基盤である学習データが、英語圏が中心の有害コンテンツを含む大量の文字情報に偏っている現状に警鐘を鳴らしました。医薬品の多くが先住民の知恵に由来するにも関わらず、経済的恩恵のない搾取の問題、北西アマゾン地域では薬用植物の知識が限られた言語でしか残されていないなどの知識消失の問題を指摘した上で、先住民の文化、言語、身体的・感覚的な「知」に基づく「ローカルAI」を構築し、巨大で中央集権的なAIに対抗する「癒しの枠組み」を創出するビジョンを語りました。
アレックス・カハナ博士(医師、ImpactRooms創設者)

現代資本主義が「物を愛し、人を道具化する世界」を生み出したと批判し、「人を愛し、物を道具化する」世界への転換を訴えました。その具体的な実践例として、国民幸福量の増大を目指すブータンで試みられている、祈りやケアといった目には見えない地域への貢献をデジタル技術を通じて可視化し、他のサービスの利用や、取引などに生かせる循環型経済「聖なる経済」を紹介しました。
落合陽一(筑波大学准教授、メディアアーティスト)

物理的な世界(自然)と計算機(デジタル情報環境)が相互に浸透・融合することで起こる、自然と人工、人間と機械といった従来の区別が超越された状態かつ、その状態の変化などが計算可能となる「デジタルネイチャー」という自ら提唱する自然観について解説。
技術革新は加速し続け、「AIが提示した選択肢の中から選ぶこと」が人間の役割となり、本質的価値は、人間同士の「つながり」や、音楽やダンスのような「表現」になると予測しました。
また、学生から相次ぐ質問にも丁寧に対応。「技術と人間性のバランス」を問う声には、「最も大切なのは、自分だけの視点を持つこと。AIはそれを表現するための〝道具〟にすぎない」と回答。「人がAIを使い、労力の少ない生活を求める理由」については、「AIを好奇心や思いやり、〝間〟の原則が存在する空間と捉えること。労力を無意味ではなく、意味あるものへ変えていくべきだ」と語りました。さらに、「AIが人間の知性を超えた時に必要なもの」について、「好奇心」「独自の哲学や視点」「偶然の出会いを大切にすること」だと述べました。
参加者からの声
- AIに関する技術面の話は多いが、思いやりに焦点が当てられ、AIと人間の関係における新たな視点を得ることができた。
- AIの新たな側面や、思いやりを持ってAIを活用すべき方法など、確実に知識が広がり、自身のプロジェクトでも深く考慮すべきだと感じた。
- AIが人間の役立つ存在になり得るかを検証する多様な視点による会話は、刺激的で知的な基盤を築く機会になった。