第10回講演録

葉祥明

創作絵本作家・画家・詩人

テーマ

心に響く声 ~words & verse~

プロフィール

1946年熊本市生まれ。創作絵本『ぼくのべんちにしろいとり』でデビュー。90年創作絵本『かぜとひょう』でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞。91年神奈川県の北鎌倉に葉祥明美術館を開館。2002年故郷の阿蘇に葉祥明阿蘇高原絵本美術館を開館。郵政省「ふみの日」記念切手にメインキャラクターの “JAKE” が採用されるなど、画家としての評価も高い。近年は人間の心を含め、地球上のあらゆる問題をテーマに創作活動を展開しており、『地雷ではなく花をください』、『イルカの星』、『おなかの赤ちゃんとお話ししようよ』、『心に響く声』など多くの作品が好評を得ている。
葉祥明さんのホームページ http://www.yohshomei.com

講演概要

「言葉は生きています。言葉には見えない不思議な力があります。絵画だけではなく言葉という芸術を通して多くの”作品”を生み出している葉祥明の新たな側面とともに、言葉の持つ神秘性をわかりやすく紹介します」

講演録

私の絵本の世界

僕は、20歳の頃から詩を書いています。

その当時は、日々の生活や、自分の感情や、人生を書き綴ったものでした。それが十数年前から、文学的なポエムではなくて、言葉そのものが、ふっと思い浮かぶというか、どこからともなくやって来るようになったのです。例えば、「あなたは今日微笑みましたか、喜びを感じましたか、優しい心になれましたか、美しいものに心を向けましたか」というように。それがやって来るのはどんな時かというと、仕事が忙しい時、人間関係で悩んでいる時、ローンを負担に感じている時などの辛い時でした。初めは、「忙しくて、美しいものを探す時間なんてないのに」とか思いながら、やって来るメッセージを書き留めていました。
でもそのうち、「美しいもの? そういえば庭に花が咲いているじゃないか! 夕焼けがあるじゃないか!」というように気づいていったんですね。そうしているうちに、言葉がするするとやって来るようになったのです。

僕にとって、絵、つまりビジュアルな作品を通じたメッセージはとても重要ですが、言葉は、絵とは違うメッセージを伝えられるものとしてとても重要なものなのです。例えば、『イルカの星』という本では、少年が水族館でイルカに出会い、そのイルカと意識の中で旅に出ます。その中で、この地球という惑星で今、何が起こっているのか、人間とは何か、これからの世界はどうなっていくのか、といったことを通して、人間のあるべき姿をイルカが教えてくれるように書きました。人間以外の生き物からのメッセージというのは、素直に受け入れやすいものです。『再び会う日のために』では、死について書きました。肉体レベルではもう会えないけれど、意識や魂や精神レベルでは、むしろ何度でも会える。生命は永遠で、愛する人にまた会えるのだよ、というメッセージを込めました。

オレンジ色をしたペンギンの子どもを主人公にした、『オレンジいろのペンギン』では、全ての人が唯一無二のユニークな存在で、また全ての人に資質や才能があり、それには必ず意味があるんだということを書きました。人は、遺伝子工学的に見ると染色体はこう、といった科学的な探求に対して、多くの目を向けています。それは重要なことなのですが、本当に知りたいことは、病弱であれ、いじめであれ、どんな身体条件であれ、すぐ乱暴をする悪人みたいな人でも、必ず意味があって、いつになるか分からないけれど、「ああそうか。このために自分はこうだったのか」と、思う時がくるんだということを伝えたかったのです。

こんなふうに僕は、絵と言葉を通して、母親の無償の愛や、夢は必ず叶うとか、人は孤独を感じることもあるかもしれないけれど、魂のレベルまで掘り下げれば、みんな一つなんだよとか、もっと世界が幸せになるためのメッセージなどを表現させていただいているのです。

言葉の生まれ方

さて、“言葉”という、僕がメッセージを伝える上で、とても大事にしている一つのものに少し的を絞って話したいと思います。

子どもは、小学校へ入ると読み書きを習います。漢字も覚えて、だんだん大人の本も読めるようになっていきます。しかし実は、今の学校で習うのは読み書き、要するに“文字”です。でも、言葉というのは、最初は音声、つまり“音”です。

そして、この言葉というものは、国によって違いがあります。一つの国の中でも、例えば日本の鹿児島や熊本、関西、東北など、ずいぶん違いがありますよね。これはなぜでしょうか。アマチュアなりに僕が研究したところによると、惑星は固有の振動数で動いています。地球もそうです。「ホント?」と、思われるかもしれませんが、皆さんご存知のように、全てのものは原子でできていて、原子は超高速回転しているわけです。だから、限りなく増幅すれば、ウーンとうなる音が聞こえます。でも、このスピンやうなり、振動は、私たちの五感では見えない、聞こえない、触れることもできません。

僕は、その振動が、星や国や地域という、固有の大地にあるというふうに推測したわけです。その振動する固有の大地にいる僕たち人間が、最初はアーとかウーとか、言葉とは言えない音声を発していたのが、そのうちこれは花と言おうとか、石と呼ぼうとかいうように、イントネーションがついていったのだと思います。
英国、フランス、エジプト、中国、日本…、それぞれの大地に生まれ育った人たちは、このようにそれぞれの言葉を持つようになっていった。だからイントネーション、言葉を変えればバイブレーションが、その土地の人々皆に身についていて、その大地の振動が伝わってくるから、言葉を聞くだけで、どこの人か分かるのではないかと思うのです。

私の祖父は中国人ですが、父も母も僕も日本で生まれ、育ちましたので、その間に振動数は日本の、しかも熊本の振動数になっています。自分ではちゃんと標準語を話しているつもりでもダメですね。18歳まで育ったときの振動数は、変えられないようです。また、この振動は思想的にも、美意識的にも、人生観にも、様々なレベルがあり、人間の深い部分で共鳴し合うことができます。それで、親友になったり、恋人同士になれるわけですね。

そのほかにも、言葉には音というか音韻が、そのまま言葉になっているものもあります。沖縄の歌に「さとうきび畑」というのがありますが、歌詞の「ざわわ、ざわわ」は、風がさとうきび畑を行き交うときの音のことです。言葉だけで言えば、国が違うと言葉は変わるはずですが、音からできているので「ざわわ」は共通の言葉になっています。この場合は、意味より音韻ですね。ドカーンとかギュッとか、言葉にはいろいろな音からできているものがあります。

このように、言葉は音、すなわち音楽とも、とても密接な関係にあります。モーツァルト、ショパンなどの音楽家、なかでも作曲家たちは、生まれ育った地域の振動によるメロディーやハーモニーを生み出しています。フランス生まれのドビュッシーは、小粋な印象派とかね。このように、音楽をはじめ絵画、あるいは文学など、芸術という分野では、芸術家の生まれ育った土地の振動の違いが、作品表現の差異となって現れてきます。それがまた、多様性であっておもしろいところだと思います。

全てはつながっている

そのように違いはあれど、200年、300年前のゲーテやカント、あるいはヘッセたちの作品の翻訳を読めば、我々は時代を超えて感じるものがある、つまり分かるわけです。なぜ分かり合えるのでしょうか。それは、深い部分ではつながっているからです。地球レベルという、大きく深いところでの共通の振動数があることを知っているからです。それは、宇宙の中の地球という振動数であり、他の惑星は、金星は金星、火星は火星の振動数によってできているのだと思います。

また、もう一つ分かり合える理由があります。それは感情ですね。これは、どの国の人々でも怒る時は怒るし、嬉しい時は相好を崩し、笑い声を上げるなど、身体全体で感情を表現するために、相手のことが理解できるわけです。

人間は、遺伝子レベルまで掘り下げなくても、姿を見れば自分と同じ人間だと分かります。姿形は全然違うけれども、それは表面上の違いだけだということも。そして、付き合っていくうちにだんだん、人間性、つまり本質の部分での付き合いになっていくわけです。今後、我々はさらに表面上のちょっとした違いにはとらわれないで、もっと物質レベルの奥にあるもの、見えないけれど、形もないけれど、確かに共通に存在するレベル、これを地球意識といいますが、そうしたレベルで物事を見て、生きていかなければいけないと思いますね。

よく地球だとか、地球人という言葉を口にしますが、実はこの広大な宇宙の中では、太陽系の中の一つの星にしかすぎない。その太陽系だって、天の川銀河の端にポツンとあるだけです。そして、天の川銀河のほかにだって、巨大な宇宙の中にはアンドロメダ、オリオンほか、いっぱいあるわけです。我々が見ている宇宙は、“宇宙”と一言で言っているけれど、実は宇宙とは言えません。天の川銀河の中にある、地球の周辺しか見えてないわけですから。一部しか見ていないのだから、正確には宇宙の一地方なんです(笑)。

しかしながら、人間の意識レベルを掘り下げていくと、物理的な宇宙を超えてしまいます。意識の宇宙というか、そのレベルにおいてはやはり、「宇宙は私」となるのですね。
人間は知性だけでなく、こういう意識を持って、感情だとか、いろいろなものを生み出しているわけです。文学もそう、ファンタジーもそう、恋愛もそうです。あらゆるものが意識のなせる技なのですね。

人間とは何か。これは振動する意識である。これは、昔は魂と言っていたんです。あるいはスピリット、霊と言っていたというわけです。あと何十年後でしょうか、でもそんな遠くない時代に、サイエンスと宗教と呼んでいるもの、あるいは哲学的なものが一致するでしょう。アインシュタインが言っているのとはちょっと違うけれど、生命の原理や法則の大統一が行なわれ、それが当たり前になる時代がくるのではないかというふうに思います。今は、そのプロセスの最中なのです。

(Q&A)

参加者● 『イルカの星』、『宇宙からの声』の絵本を読んだ時、絵本を通して自分も宇宙にいるような感覚になって感動して、涙が止まりませんでした。先生は絵本を描かれているときに、宇宙の振動というか、波動と響き合いながら描かれているのですか。また、もしそうならば、それはどんな感覚なのでしょうか。

葉● 画家というのは、よく自分の作品に感動したと自画自賛します(笑)。でもこれって大事なんです。僕は赤ちゃんや動物や木など、いろいろな主人公の話を描きますが、主人公になりきって描いています。この、なりきる意識というのは、非常に重要なんです。胎児なら胎児の、イルカならイルカの、宇宙なら宇宙の、というように。

宇宙を描く時は、心は宇宙に広がっていきますが、僕は天体図を科学的に描くイラストレーターでありませんから、漆黒の宇宙は描きません。宇宙が漆黒というのは正しいのでしょうが、芸術は美しい嘘ですから、限りなく正確に描こうとするより、ただ美しく描きたいのです。だから、僕の描く宇宙は、星の大きさも密度もいろいろです。絵筆を通して宇宙を出現させたいと思いながら色を重ねていくうちに、だんだん無我の境地になっていき、ある時突然、宇宙が画面の中に出現しますので、それを描いています。その時、それを描いている僕はいません。意識という存在になって、描いている宇宙と一体になっているのです。

参加者● 今、クリスタルチルドレンと呼ばれている、現代社会では生きづらい思いをしている子どもたちがいます。そのお母さんたちも苦労されていますが、そのことについて、何か思われることがあればお聞かせください。

葉● 文明に例えて話すと、古代ローマ、エジプトをはじめ、これまでの文明は、完成されても次の進化のために滅びていきました。実は、人類も生物も地球も宇宙も文明と同じで、全て進化・成長を続けるプロセスの最中なのです。これで完成であり、完璧なのだという思いは傲慢です。では、どこへ行くのか。これは、我々の脳では計れないものです。

クリスタルチルドレンに限らず、肉体的にハンディキャップを背負っている方々、ダウン症の方々などがいらっしゃいます。一般的に言えば、そういうお子さんのお母さんは大変だという見方をしがちですね。だけど、違う意識レベルで見ると、そういうお子さんを持ったお母さんたちは、普通の体力や経済力だけでは大変なことも多くなりますから、自分という人間から無限の可能性を絞り出さなければいけなくなる。強く、たくましく、そして豊かな愛を! もう大変であるという次元を超えるほかなくなるのです。

ですから、個人としてのお母さんであれ、社会であれ、彼らを可哀想な存在だとは思わずに、社会や人類が、より進化・成長するためのジャンプボードなのだから、私たちはそういう方たちに感謝の気持ちを持つことが必要だと思います。それによって、自分も社会も、より発展するということなのですから。