大阪講演録

龍村仁

映画監督『地球交響曲』

テーマ

霊性(スピリチュアリティー)の時代

プロフィール

1940年兵庫県生まれ。63年京都大学文学部美学科卒業後、NHKへ入局。東京オリンピックの中継担当や、フィルムドキュメンタリーを演出。74年からインディペンデント・ディレクターとしてドキュメンタリー、ドラマ、CM等を数多く手がける。92年ドキュメンタリー映画『地球交響曲 第一番』発表。2000年5月有限会社龍村仁事務所を設立。04年『地球交響曲 第五番』発表。『地球交響曲』は、地球の未来に多くの示唆を与えるドキュメンタリー映画として全国各地で自主上映され、観客動員数を伸ばし続けている。現在、『地球交響曲 第六番』を制作中。

講演概要

21世紀は、人類のあらゆる営みの背後に、やわらかい「霊性」の覚醒が必要な時代です。私がここでいう「霊性」とは、必ずしも宗教的なことではなく、「自分が生きているということは、自分の力や努力によって生きているだけではなく、時空を超えた大いなる生命の繋がりによって生かされている」という実感のことです。「地球交響曲」の出演者はみな、それぞれに独自の道を歩みながら、そのことに気付いている人たちばかりです。そのことを具体的な例を挙げてお話したい、と思っています。

講演録

私は60歳で今の事務所を立ち上げた時、「21世紀に大切なのは、霊性(スピリチュアリティー)の蘇り」をキャッチフレーズにしようと決めました。それから映画を通して、スピリチュアルな生き方をする人々を紹介しながら、あらゆる人々の、何かの手助けができればと思って映画を作っています。人間は、自分の意志や能力だけで生きているわけではありません。酸素一つとって考えてみても、地球から与えられています。つまり私たちは、生きているのではない、「生かされている」わけです。

薬師寺の宮大工、西岡堂一さんからこんな話を聞いたことがあります。「樹齢千年の樹を切って作る建物は、千年はもつように建てます」と。どれほど高度な技術が要求されるのか想像がつきません。しかし彼は、自然の生命をいただくのだから、別の形でもきちんと生きてもらえるようにするという気持ちで樹と向き合えば、本当に必要な知恵は出てくるといいます。スピリチュアリティーというのは、こういう感覚の表れで、決して難しいものではなくて、誰の心の奥にもあるものだと思います。

私たちは、樹とつながっているように、あらゆる全てのものとつながり、生かされています。こういう気持ちを持つことができれば、日常生活における選択や生き方は、全然違ってくるはずです。

僕の場合、映画を通して、全てはつながっているのだと実感できる不思議な経験をたくさんしています。例えば、僕は出演者を、偶然の出会いと直観でいつも決めているのですが、『第四番』の出演者で、動物行動学者のジェーン・グドールさんの時は、友人がくれたジェーンの自伝がきっかけでした。
本の中の彼女の写真を見た瞬間、なんて素敵な人だろうと、とても惹きつけられました。と同時に、こんな素晴らしい写真を撮れる人は誰だろうと気になった。すると、『第三番』に出演予定だった写真家の故・星野道夫さんとある。僕は、彼女が『第四番』に出演すると確信します。

世界中を講演などで飛び回る多忙な彼女に、ベストな出演交渉方法は何かと考えていたら、別の友人がジェーンの新著を翻訳したという情報が飛び込んできました。話を聞いてみると、ジェーンの旧友である高円宮妃久子殿下が、出版前の翻訳に目を通されていたといいます。実は、妃殿下は『第三番』をご覧くださっていて、それを機に僕は親しくさせていただいていたのです。

こうしてジェーンと直接話す機会をいただくことができました。その時は、お母様の体調が悪かったこともあり、お母様の話や、生命などの話ばかりで、具体的な出演交渉はしませんでした。でも彼女は、翌日からまた旅へ出なければならないという日に、「あなたの映画に出ることは、運命だと思います」と出演を快諾してくれました。

大きな生命に生かされているという気持ちで物事を行っていると、自分が考える次元をはるかに超えたつながりが起こってきます。確かに人間だから、目の前の様々な出来事や状況に対して、ネガティブな感情を持つこともあるでしょう。でも、はっきり言えることは、今起こっていることが、未来にどのようにつながるかはわからなくても、この道を選ぶべきか自分に問い直してみて、後ろめたい気持ちがなければ、一歩踏み出していいと思います。そのあとは、自分は大きな生命の中で生かされ、全てはつながっていることを信じ、誠心誠意でベストを尽くしていく。そういう謙虚さを持ちながら物事を進めていけば、予期せぬ素晴らしい結果は起こってくるはずです。

僕は、日常生活での一人一人の小さな選択の変化こそが、大きな変化にとって必要であり、大きな変化を起こすのはそれしかないと思っています。なぜなら全てはつながっていて、響きあっているからです。
——————————————————–

(Q&A)


参加者● 『第四番』で、サーファーのジェリー・ロペスが登場したシーンが好きです。撮影中に何か印象に残ったことはありますか。

監督● 彼は、ハワイで20フィートを超える高波に乗れる偉大なサーファーなのに、波に乗っている時間より、風や波と対話しながら待っている時間の方が生きている感じを味わえて、充実していると言っていました。一般的には、波に乗っている時間こそが有意義だと捉えがちです。でも彼は違う。すごい人だと感動しました。

スピリチュアルな生き方をしている人には、学べる部分がたくさんあります。それは自分と違う生き方の中に、共感できるような発見があり、信頼と尊敬の気持ちを持てるからです。

人間には、自分の利益のために、自分と違う相手を抹殺しようとするエゴがありますが、自分と違うものを素敵だと思い、共に生きることでより豊かになると気づけるのも人間の素晴らしさ、スピリチュアリティーだと思います。これから地球という生命体が進化していけるならば、そのカギを握っているのは、人類のものの考え方ではないかと思います。