大阪講演録

神津善行

作曲家

テーマ

地球に生きる

プロフィール

1932年東京生まれ。国立音楽大学器楽科卒業。300曲もの映画音楽をはじめ、歌謡曲『新妻に捧げる歌』、交響詩『月山』などを作曲。30年前から早稲田大学理工学部と共同で「植物と音との関係」を研究。植物の発する電位を採取・解析し、音源を使い音楽として表現することに成功、NHKなどの番組で取り上げられる。93年古楽器集団「六華仙」を結成、植物発信音との競演をテーマに国内外で公演を行う。現在、東京交響楽団理事、日本民謡協会理事、早稲田大学理工学部特別研究員も務める。

講演概要

「地球は、様々な生物がお互いに秩序を持って生存している。この秩序を最も壊しながら勝手に行動しているのが人間であろう。植物は動物に食べられる前提のもとに生きている生物であるが、この植物の世界を知りたくて、早稲田大学理工学部の特別研究員になったのは十数年前のことである。植物にも動物の持つ思考に近いものが存在するし、非常に繊細な知恵もある。これらを知るためには、先端技術を持つ機材が必要であることから大学に籍を置いた次第である。今までに知り得たことなどを集約して、今、人間はどう生きるべきかを考えてみたい」

講演録

物ごとを多角的に捉えられれば、対立は防げる

今、私たちは、地球が何億年もの時間を経て、人間や動植物が暮らせる環境を作り上げたおかげで、こうして生きていられます。しかし、もしかしたらいずれ地球という星にも寿命が訪れるのかもしれません。そう考えると、この時期に人間として生まれてこられた、こんな幸せはありません。その限られているかもしれない時間の中で、人々が殺し合う、傷つけ合うことは非常に残念ですし、無意味な行為です。

私は、憲兵隊の隣の小学校に通っていたため、軍楽隊に入れられていました。私が音楽家になったのは、このときの経験がきっかけです。麻布中学時代に終戦を迎え、新しくできた演劇部に入ると、フランキー堺、小沢昭一、加藤武、仲谷昇、なだいなだ、北杜夫、倉本聰、そして吉行淳之介氏などがいたのです。このグループは、それまで日本だけが正義であると教えてくれた教師の考え方が間違っていたのではないかという疑問からよく討論をしました。

何ごとにも互いの言い分があり、正義があります。自分や、自分の国だけが正しくて相手は間違っているという発想から、いろいろな問題は起こり、戦争や争いが始まります。ですから、両方の意見を聞くことが大切です。このグループで受けた影響が、私の人生の根本にあると思っています。

植物が持つ不思議な力を知り、共に生きることを考える

私は音大卒業後、音の研究に興味を持ち始めました。というのも音は、空気がある地球にしか存在しません。神様は、地球だけに音を与えてくれたというわけです。

最初は胎児と音の関係を、7年の歳月をかけて研究しました。当時、ソニーの盛田昭夫さんが超極細のマイクを用意してくれ、胎児が胎内で聞いているのと同じ音を子宮から取り込むことができました。それを新生児室で編集をしていると、赤ちゃんたちが眠っていることに気づきました。止めると泣き始め、音を出すと泣き止む。この音を7秒程聞くと、99%の赤ちゃんは寝ました。記憶していた、胎内で聞いた音に触れられ、安心して眠ったのだと思います。

このように、人間は音をコミュニケーションの最も良い手段として使っています。動物も泣き声などの音でやりとりをしています。私は、地球上の生物は全て音と関係を持っているに違いないと考え、植物と音の研究をしようと思ったのです。

私は早稲田大学理工学部の三輪敬之教授と共同で研究を始め、研究室が製作した根や葉から出るわずか1万分の1ボルト程度の電位を採取できる機材を取り付け、パソコンで解析をしていきました。ある実験では、機材を付けた植物の間を人間が歩いてみると電位が大きく振れ出したのに対し、動物を歩かせても電位は乱れなかったことがありました。植物は動物を同類と考えているのかもしれません。また、ある植物にライターの火を近づけると、隣の植物は瞬間的に反応しました。どの範囲まで反応するかを調べると、非常に長距離を瞬間的に伝わることがわかりました。

それから、海水を真水に変えてしまうマングローブは、1000分の1ボルトという電位が非常に強い特徴を持っています。これは遊びですが、マングローブから出る電位を12音階に変換し、ピアノの音で表現させてトランペッターの日野皓正さんに聞かせたら「すごいね、この人。紹介して」と言われたほど面白いものになりました。これを原音に近い複雑な音階にして、私が結成した『六華仙』という古楽器による楽団で、世界中で演奏してきました。植物も人間も同じ地球上で生きているのだから、もっと環境について考えようということを伝えたかったからです。

私の研究生活は、30年以上になりますが、結論といえるものはまだありません。ただ、非常に植物は不思議な能力を持って生きていることは明らかです。人間は、植物を食べて生きています。地球に生を受けながら地球を壊すような行為は慎まなければなりません。共存について一人一人が考え、生き方に表して行くことが非常に大事だと思っています。