第41回講演録

飯田哲也

認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長

テーマ

グローバルなエネルギー変革─地域からの挑戦

プロフィール

1959年山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出し、北欧での研究活動や非営利活動を経てISEPを設立。自然エネルギー政策の第一人者であり、先進的かつ現実的な政策提言と積極的な活動や発言により、政府や地方自治体のエネルギー政策に大きな影響を与えている。3・11後は、いち早く「戦略的エネルギーシフト」を提言して公論をリード。福島第一原子力発電所事故発生以降は、内閣官房原子力事故再発防止顧問会議委員をはじめ政府や地方自治体の委員を数多く歴任。孫正義氏による「自然エネルギー財団」設立の中心を担い、業務執行理事も務めた。

講演概要

近年、気候変動の危機、エネルギー資源の危機、そして福島第一原発事故などのグローバルな危機の中で、世界の自然エネルギーは、「人類史第四の革命」と例えられるほどの加速度的な拡大を続けており、目に見えるエネルギー変革が進みつつあります。これを主導しているのが、地域分散ネットワーク型のダイナミズムが引き起こしつつある、“分散エネルギー革命”というエネルギーシフトです。国内外の“分散エネルギー革命”の実例と、そのダイナミックな展開を紹介し、3・11後の日本のエネルギー変革を構想します。

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講演録

平和をつくる上で、エネルギー問題は、解決すべき最も重要な課題の一つです。
その中で、日本人にとって、3年半前の福島第一原子力発電所の事故は、大きな転換点となりました。
私は、この事故は、天災が引き起こした偶然の事故ではなく、国の形を大きく変えるきっかけとなる日本近代史の大きな事件だと受け止めています。

エネルギーの常識は、大きく変わり出している

エネルギーのシフトは、農耕革命、産業革命、インターネットなどの情報通信 コミュニケーション革命に続く、「人類史第4の革命」と言われていますが、いま、世界の流れを見ると、これまでのエネルギーに関する常識が大きく変わってきていることがわかります。

まず、世界の自然エネルギーの発電量を見ると、10年間で加速度的な伸びを続けています。一方、原発は、中国、韓国、東欧の国々で年に3、4基が新設されていますが、アメリカや日本の原発が老朽化によりどんどん閉鎖されているので、発電量は失速しています。原発大国と言われる中国でも一昨年の実発電量は、風力が原子力を追い越し、今なお伸び続けています。この流れをある意味つくっているのは投資です。自然エネルギーへの投資額は、10年前は、銀行や投資ファンド、政府の出資金を合わせて世界で4兆円だったのが、2011年は28兆円。もはや原子力や化石エネルギーに投資される額よりも多くなっています。

自然エネルギー=高コストと思われるかもしれませんが、実は、太陽光発電はテレビやパソコンなどのハイテク機器と同じ原理で、市場が広がる限りは、研究者や技術者が知恵を蓄積して、年々高性能化が進み、価格は下がっていきます。これは人類史上初めて登場した「知恵と経験で安くなっていくエネルギー」です。また、電力には、一年中、一定の出力で安定供給できる「ベースロード電源」という考え方があります。日本の場合は原子力でした。しかし、2022年に原発の全廃に向け、目標を上回る急速なペースで自然エネルギーを増やしているドイツでは、変動する風力発電や太陽光発電をベースロードとして捉えるか、ベースロードという概念そのものが消えつつあります。自然エネルギーが増えるということは、火力発電の燃料である石油などの輸入が削減できるので、ドイツでは、2010年に3000億円が節約されています。

また、国内にエネルギー市場が拡大されるので、新たな雇用効果が生まれ、地域は活性化します。お金も核開発や軍事などではなく、グリーン化できるなど、様々な便益がもたらされます。ドイツの電力は完全自由化されています。かつて電力を独占していた大手電力会社は、太陽光発電や風力発電の出現により供給量が減少し、電気料金も下落して存続が危ぶまれる事態となり、今年8月には、政府が固定価格買取制度を「改悪」するということもありました。しかし、エネルギーの大きな流れで見れば、巨大な象を小さな蟻が倒していくかのような現象が起きているのです。

日本の自然エネルギー

かつて、太陽光発電のパイオニアと呼ばれた日本は、10年前にドイツに追い越されて以来、置いてきぼりの状態でしたが、3・11以降、急速に増え、累計1400万kW、原発14基相当の電力が供給可能になり、原発稼働ゼロだった今年の夏を乗り切るのにかなり貢献したはずです。市場規模も中国に次いで世界2位まで復活しました。

日本の太陽光発電は、2億kWの導入可能性があり、風力発電は陸上と洋上を合わせれば18億kWもの可能性があると言われています。現在の日本の電力供給設備は2億kWなので、十分賄えます。太陽光増加の背景には、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の導入があります。実は、この制度は、東日本大震災が起きた2011年3月11日の午前中に、当時の民主党政権が閣議決定したものです。歴史の綾というか、非常に偶然を感じます。

日本初、エネルギーの自立を目指す福島県


今日、最もお伝えしたいのは、大規模集中型から小規模分散型へ構造転換を起こしつつあることです。デンマークでは、30年ほど前まで、二つの大きな電力会社が電力を独占していましたが、今では6500基の風力発電とコジェネレーションシステムという、燃料を発電させる際に生じる温排水を地域の暖房等で利用するシステムを採用しています。これらは電力会社ではなく、農家や協同組合など、地域の人々が所有し、電気代を支払う側から、電気を生み出し、電気代をもらう側に回っています。

このように世界では、エネルギーと所有の関係、エネルギーと地域の関係が大幅に変わってきています。
日本では、原発事故以来、大変な状況が続いている福島県が、2012年の3月に県庁、県議会、県民の総意によって2040年までに自然エネルギー100%にすると決めました。福島県は、日本でエネルギーの自立を決めた初めての県です。

福島県はこれまで、エネルギー植民地だったのかもしれません。福島が抱える10基の原発が作る電気は、東北には全く使われず、東京電力の送電線で関東へ送られています。また、福島が誇る美しい猪苗代湖の水利権は、東京電力が所有し、使用する時は東京電力に許可を得なければなりません。事故のリスクや核のゴミは福島が背負い、利益は東京が受け取るという仕組みになっているのです。国全体での環境とエネルギーの自立だけで考えるなら、東京やその地域以外の資本が施設をつくっても構いませんが、地域経済の観点から見ると、デンマークのようにその地域の人たちでつくることが必要です。これを、我々はエネルギーの「地産地消」を一歩超えて、「地産地所有」と呼び、地産地所有で生まれた電力やバイオマスの燃料などを「ご当地エネルギー」と呼んでいます。

私たちはエネルギーを「何のため」に使うのか


日本の最初のご当地エネルギーは、北海道の浜頓別町にあるグリーンファンドの風力発電です。建設費2億円のうち、1億5千万円は北海道や県外の人たちによる出資、残りは銀行からの融資です。ご当地エネルギーは、3・11の後、非常に増え、現在、全国に27カ所あります。福島、新潟など原発を抱える地域をはじめ、エネルギーとは関係のない分野の人たちもエネルギーの自立へ向けて続々と立ち上がっています。

今までは、エネルギーを増やすことと経済的に豊かになることはイコールでした。しかし、今後のエネルギーと経済の理想的な姿は、自然エネルギーを飛躍的に増やしながら省エネ・節電を進めていく挟み撃ちで、環境と経済のどちらも良くしていくことだと思います。現に節約という点では、2010年の東京電力の最大電力需要は6000万kWでしたが、2011年から今年まで5100万kWに押さえることができ、これは1兆円の節約効果になります。

最後に。私たちはエネルギーを何のために使うのでしょうか。エネルギーの選択は、使い方も含めたライフスタイルと社会のあり方であって、最終的には幸福や平和といった方向から考える必要があると思います。自然エネルギーが辿る道のりは、ガンジーの言葉に集約されると思います。「最初は無視される。次に嘲笑される。やがて闘ってくる。最後はあなたが勝つ」。

ドイツでもどこでも初めは無視をされ、次に目立ち始めるとメインストリーム(主流派)側から嘲笑され、巨大電力会社が倒産の憂き目に遭い始めると、本格的な戦いになります。ドイツは今、このステージです。しかし、自然エネルギーは、安く、全ての人にメリットを与えます。今後も政治的な障害はあるでしょうが、世界中で、民主的なやり方で取り組まれています。ここ10年といった短い時間では難しいでしょうが、50年のスパンで考えれば、間違いなく本流になると私は信じています。そういう方向で一人一人が取り組むことができるエネルギーが、世界を変えていくのではないかと思います。