【開催報告】第6回ESD日本ユース・コンファレンス

「教育でより良い未来をつくる」(全体概要)

「ESD日本ユース・コンファレンス」は、国内各地でESD(持続可能な開発のための教育)に取り組んでいる、多様な立場の若手リーダーたちが出会い、つながり学び合い、相互理解を深めながら教育の新たな潮流を創り出していく場です。日本/ユネスコパートナーシップ事業として、文部科学省、日本ユネスコ国内委員会、公益財団法人五井平和財団が開催しています。

当初、2019年10月に予定されていた「第6回ESD日本ユース・コンファレンス」は、台風19号の影響により延期となり、2020年2月15・16日に都内での開催となりました。

学び・スキルアップ、個人の気づき・自己変容、アイデアの創発・具体的な取り組み、そしてコミュニティの形成を目的に、教員や研究者の他、NPO/NGO、学生、行政、自治体、企業等、日本各地でESDに取り組んでいる多様な45名のユースが国内各地より参加し、お互いの知識や経験を共有し、未来のビジョンを共創し、分野や立場の違いを超えて、同じ志を持つ仲間同士でプロジェクトを生み出していくよう取り組みました。

参加者たちは、ユース・コンファレンス参加に先立って、Facebookやオンライン・ビデオ会議システム「Zoom」を使って、お互いの自己紹介などを行った上で、本番に臨みました。

2日間のプログラムは、以下の5つのステップで進行しました。

【第1部】「旅の始まり、足場をそろえる、心をゆるませる」
【第2部】「深くつながる、自分と仲間と」
【第3部】「とことん語り合う、学びあう」
【第4部】「未来のビジョンを描き、私や私たちのチャレンジを始める」
【第5部】「前に進む、終わりは始まり」

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ESD日本ユース・コンファレンス 1日目

旅の始まり、足場をそろえる、心をゆるませる

今回のコンファレンスも、過去のコンファレンス参加者5名がプログラムサポートチームとして企画段階から加わり、事務局と共に一からプログラムを練り上げたことで、ユース主体の対話型のプログラムが進んでいきました。また今年はコンファレンス後もプロジェクトの更なる推進とSNSの積極的な活用を図るため、Facebookに投稿する時間を設ける等、新たな試みも行われました。

開会の冒頭、主催者を代表して、文部科学省文部科学戦略官、日本ユネスコ国内委員会副事務総長の平下文康氏が、ESDの歴史的な背景や概要と共に、SDGs(国連持続開発目標)の達成に向けて国連総会で採択された「ESD for 2030」においても、ユースが引き続き優先行動分野の一つと位置づけられている点も踏まえ、ユースに対する世界からの高い期待について語りました。

ファシリテーターの嘉村賢州氏(東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授/NPO法人場とつながりラボhome’s vi(ホームズビー)代表理事)からは「全国各地から集まった多種・多様なユース同士だからこそ、相互に影響を与え合い、自身が変化する時間にして、この2日間でプロジェクトを企画するための種を見つけましょう」と呼びかけがあり、参加者も期待やイメージを膨らませていきました。

次に、サポートチームメンバーの進行で、「コンセットリックサークル(=同心円)」というアメリカ先住民の対話手法を使い、緊張を解きほぐしながらお互いを知っていきました。「先住民の人たちが大切にするのは“相手の中に宝物がある”という意識。聞くことを重視し、聞くことで豊かな未来を生み出していこう」という共通認識もあり、参加者たちが多様な人との対話を楽しんでいる様子があちらこちらで見られ、「相手が傾聴してくれる安心感があって話し易かった」「言葉に出すことで自分自身のことを改めて知ることができた」等の感想が聞かれました。

続いても、サポートチームメンバーが、KP法(紙芝居プレゼンテーション法)を用いて、ESDとSDGsの基本のおさらいをし、全体の共通言語化を図りました。クイズや対話の要素を取り入れたユーモア溢れる語り口調に、最初は表情が硬めだった参加者の顔にも、徐々に笑顔が表れる等、真剣な中にも、非常に良い雰囲気の学びの時間となりました。参加者からは「ESDやSDGsに関して、基本的なことから改めて見直すことができた」「過去のコンファレンス参加者が講師をされている点がいい」等の感想が寄せられ、2日間を通して参加者がESDやSDGsについて問い直し、自分の答えを持ち帰るための探求の時間となりました。

深くつながる、自分と仲間と

参加者同士の絆を深めるためグループ対抗によるゲームが行われました。速さを競い合う遊びの時間を通じて、メンバー同士はたくさん会話をし、フォローし合いながら、お互いの関係性を深めていきました。

打ち解け合ったグループメンバーはそのまま昼食を共に。午後からは自分や仲間と深く繋がるためのストーリーテリングの時間。それぞれのESD活動のメインテーマやきっかけ、チャレンジを乗り越えた体験、課題・目標等を共有しました。最初は戸惑いながらも自分のことを語っていく内に、原点を思い出したり、現状を整理したり、深く自分とつながっていきました。「同じ悩みや想いを共有できて有意義だった」「新たな価値観を得ることができた」「自分の目標を再確認できたり、仲間意識が芽生えたり、安心感が増した」等、仲間の活動や想いを聞くことで、仲間ともつながる深い対話の時間となりました。

とことん語り合う、学びあう

ここからは、一般社団法人Think the Earth理事の上田壮一氏が「地球思考と未来のソーシャルデザイン」をテーマに講座とワークショップを行いました。

約50年前に人類が初めて見た地球のカラー写真や宇宙飛行士の話から、国を越えて地球環境を見る視点が生まれ、後の「持続可能な開発」の概念や国連でのSDGs採択へとつながってきたこと、そして現在の人類のHOME(=家)である地球を守ろうという環境保護意識へとつながってきたことを学びました。また、実際に中高生がSDGsのプロジェクトを立ち上げた事例などを紹介し、参加者の活動の視点を広げていきました。

上田氏は、締めくくりに「宇宙から地球を見る前と後では世界の様々なものが変化している。私たちは大きな転換の最中にいる。自分の目で見えているものだけを考えるのではなく、時間的、空間的に広く見ること、視点を宇宙に飛ばすことがより良い未来を考えるポイントになる」と参加者に語りかけました。

「『未来はいつかやってくるものではなく、自分で創りだすもの』という上田さんの言葉が印象に残った」「世界と自分がつながっていること、世界で起こっていることは『自分ごと』であるということを意識することができた。『地球思考』はこれからの社会に欠かすことのできないものであり、『地球市民である』という意識を持つことがESDなのだと感じた」「実際の活動事例がとても学びになり勇気がでた」等、参加者たちの心に響く時間となりました。

その後、4人の有志が多様なテーマで、ピアラーニング・ワークショップ(仲間同士で学び合うための分科会)を行いました。

ピアラーニング・ワークショップ
  • 学校でSDGsを実践するために
  • 地域でできる環境対策のアクションプランの作成
  • 参加型読書会アクティブ・ブック・ダイヤログをやってみよう!
  • ○○からはじまるESD

同じ「ESD」に取り組む仲間でも、日々取り組んでいることは実に多種多様で、多角的な視点から学び合うことができました。4人の主催者にとっても、フィードバックがもらえるなど学びの多い機会となったようです。

1日目の最後は、「一日を通してどんなことを学んだか」「2日目はどのように過ごしたいか」等を共有しました。

ESD日本ユース・コンファレンス 2日目

未来のビジョンを描き、私や私たちのチャレンジを始める

ワクワクのスタートから未来を共創するワークへ。最初は「タイムマシン」に乗って、15年前にはなかったものを振り返りました。それから、小グループにわかれ5つのテーマで、この先の10年でどんな変化が予想されるかを更に自由に思い描きました。お互いのビジョンを思いつくままに語り合うことで、「時代の変化のスピードを改めて痛感できた」「現時点では不可能だったり、夢のようなことも可能性はゼロではないと感じた。バックキャスティングで考える未来思考はとても楽しく、ワクワクした」「この仲間と希望の未来を創っていきたい」等、感覚を研ぎ澄ませて想像・創造する時間となりました。

その後、ファシリテーターの嘉村賢州氏による「プロジェクト運営の秘訣」についてのリーダーシップ育成講座が行われました。

嘉村氏は、『ティール組織』の提唱者で、同書の著者のフレデリック・ラルー氏の言葉を引用して、どんどん人が集まる、社会的に影響力があるような卓越したプロジェクトづくりにとって大切な要素として、「初期段階にしっかりとしたパーパス(目的)に出会い、自分にとって何が一番意味あるものかという問いに向き合うこと」と語りました。

これからプロジェクトづくりを行うユースにとって、「チーム運営の神髄を学ぶことができた」「組織の作り方、理念の作り方を体系立てて初めて聞き、学ぶところが多かった」「プロジェクトの4段階を知ることで、どこから始めたらいいかがイメージができた」「『プロジェクト』という言葉に怖じ気づいていたが、どんなことでもいいのだと感じることが出来て、自分でも何か動いてみようという気になった」「自分の心の声を今まで以上に真剣に聞いていこうと思った」等、ヒントが満載の内容となりました。

嘉村氏の講座を受けて、参加者は自分のつくりたい未来を実現させるため、それぞれに一人になって静かに自己と向き合い、マイ・パーパスをじっくりと探求する時間を持ちました。

パーパスを探求した参加者達は、自らが本当にやっていきたいプロジェクトの種を考え、10を超えるプロジェクトが提案されました。それぞれ自分の関心テーマに一番近い提案者と共に本格的にプロジェクトづくりを開始し、お互いのパーパスを大切にしながら、徐々にプロジェクトの骨子や内容について議論を深めていきました。

グループの統合等もあり、結果的に10のプロジェクトが生まれました。また、自らがプロジェクトに中心的に取り組むコアメンバーとしてだけでなく、他の複数のプロジェクトにも高い関心を寄せて、サポートメンバーとなる参加者もいました。

この間、各分野のESDのベテラン層のメンターも各プロジェクトを廻り、参加者一人一人の熱い想いに触れながら、適宜アドバイスをしたり、サポートを約束したりする等、ユースたちのプロジェクト実現に向けて、惜しみない協力の意向を示しました。

新たに生まれたプロジェクト

1. ESDさーくる

生徒の自己肯定感を高め、ESD・SDGsアクションの振り返りをするために、子どもたち主体の発表の場を設ける。

2. SDGs × ソーシャルビジネス
ESDとソーシャルビジネスをつなげ、社会人から中学生までを対象に、主にオンライン(Zoom)上で授業を行っていく。
3. 海洋 × ESD
海洋プラスチックは身近なところに要因があり、危険性もあるということを知ってもらうための教材や動画を作成。
4. 人生を楽しむための「当たり前ロス」

日常のロスを体験し「ある」ことへの感動に気付いていく。

5. 放課後ESD!
既存の教材を有効活用して、放課後ESDのあり方を研究。
6. 「愛すること」「愛されること」事例、体験ストーリーの映像化
愛し愛される経験が自己承認につながり、生きる活力や社会課題に取り組む力になるよう、動画を作成。
7. ESDストーリーアーカイブ in Google Earth

Google Earth上に仲間のESDストーリーを作成してオンライン上で紹介。

8. アウトドアの実践から学ぶESD―Part1児童向け―
子どもたちに野外活動を経験させるだけでなく、SDGsも学んでもらうアウトドアなアクティブラーニング。
9. つながる・ひろがる・ぼくらの世界(仮)
日本の小学生が海外の子どもたちのことを知り、海外の現状を考える機会を作る。
10. 生存確認プロジェクト
オンラインで、「何となく言いたいこと」がある人が言いたい時に言いたいことが言えるプロジェクト。

各プロジェクトチームからは、それぞれの議論内容や今後のプロジェクト計画の案が発表され、更に仲間を募る呼びかけもありました。それに呼応するように、参加者たちは、協力の意思やアイデアなどを積極的に寄せました。

プロジェクトづくりを体験した参加者たちからは「コンファレンスの中で一番創造的な時間であり、ワクワクした」「何より、自分がやってみたいと思ったことに対して肯定し、助言してもらったのがとても嬉しく、自己肯定感の向上にもつながった」「現段階で自分に足りていない情報や意見を参加者やメンターの方々からたくさんいただけたので、満足している」「この2日間で知り合えた仲間と今後も継続した取り組みを通じて、つながっていきたい」等の感想が聞かれました。

5/31に都内で開催予定の「ESD日本ユース・コミュニティ・ミーティング」までの3ヵ月半、進捗報告に向けて参加者たちはプロジェクトを実施していきます。第6回参加者だけでなく、過去の参加者、またESDに取り組んでいる全国各地の実践者が都内に集まって、行われる予定です。

前に進む、終わりは始まり

プログラムの締めくくりとなる「チェックアウト」の時間では、仲間たちと大きな円を囲み、2日間の時計の針を巻き戻して、学びの体験を共有した時間を全員で振り返ると共に、今回の出会いや語り合いを通じて得られた様々な収穫や自分の中の新たな発見、自分が取り組むプロジェクトの次のステップ、感想等を、一言ずつ発表しました。

参加者のコメント(抜粋)

  • 「学びが多く、コンファレンス自体が教育の場になっていた。ファシリテーション技術も勉強になった」
  • 「自分の職場(学校)でのチームづくりのヒントが得られた」
  • 「パーパス(目的)と向き合う人たちがきっと世界を明るくするのだろうと感じた。どんなジャンルであれ、行き着くところが一緒ならば仲間と思えた時間だった」
  • 「今回出会った仲間と新しいプロジェクトをやっていくのが楽しみ」
  • 「教師をやる意味が見えて、ワクワクしてきた」
  • 「2日間考えたことが深く、『もっとやりたい』という意欲にもなっているので、地元に帰ったら広めていきたい」
  • 「自分のパーパスをいろいろな観点で考え、改めて明確化できた」
  • 「明日からコンファレンス・ロスになりそう(笑)だが、ロスにならないよう、皆さんと話し合いを続け協働していきたい」
  • 「奇跡みたいな2日間だった。ここで学んだことを、来られなかった人たちにも伝えたい」
  • 「ここでのプロジェクトを使って新たなビジネスを創っていきたい」

 

メンターのコメント(抜粋)

  • 「ここで出来たつながりは、明日か10年後かは分からないが、必ず役に立つので、ぜひこの縁を大事にしつつ、ここで受けた恩を次の世代に送っていって欲しい」
  • 「皆さんの話を聴いていて『ワクワク』という言葉がよく出てきた。それがESD。これから未来を創っていく、子どもたちを育てていく皆さんが元気にならないとESDなんかない。ESDにはいろいろなやり方があるので、楽しみながら、ウェルビーングな人生を送りましょう!」
  • 「皆さんは理論よりも実践してきて、社会の問題をどう解決していくかというプランが練られているので、ぜひ進めて欲しい。やってみて失敗した経験も役に立つので、ぜひやってみて欲しい」

文部科学省国際統括官付国際戦略企画官・大杉住子氏の講評

「最初に出た意見が議論の過程でどんどん変わり、本質に迫っていくプロセスを楽しく拝見させてもらった。今回、いろいろな解決方法(ツール)が出てきたと思うが、『どういう問いに向き合うためのツールだったのか』ということを、ぜひ学習者の目線で考えながら、発展させていって欲しい。ユネスコでは教育を『組織化された学習』と定義付けし、2050年の教育を議論し始めている。昨日、2045年の社会について考える大企業の中堅幹部研修に参加した。議論されていたことは、ここで皆さんが話していたことと似ている。企業の人たちも価値観を揺さぶられ、ジレンマを抱えながらも、環境、経済、社会のバランスを考えて、やらなければならない。大事な課題をやるには時間がかかるので、自分の経験値やスキルを上げ、ネットワークも大事にしながら、やっていって欲しい」

2日間にわたって、それぞれの参加者が「環境や社会の様々な課題を解決し、みんなが幸せに暮らせる持続可能な社会を育むためには、どうすればよいのか? そのために教育や人づくりを通して、私たちは何ができるのか?」を自問自答し続け、仲間たちとの想いを共有するプログラムは終わりました。そして、一人一人が「教育でより良い未来をつくる」ための担い手としての自覚と熱い想いを胸に、ここから新たな一歩踏み出しました。

コンファレンス終了後、多くの参加者たちは、交流会にも参加し、過去のコンファレンス参加者や、メンターらも加わり、活発に情報や意見を交わしました。

第6回参加者も加わって約300名となった「ESD日本ユース」のコミュニティの輪が、更にESD/SDGsの推進に寄与していくことが大いに期待されます。

コンファレンス後の継続的な活動

「ESD日本ユース」メンバーの有志が中心となり、第5回コンファレンスで生まれ、本年度も継続しているプロジェクトの一つ「ESDユース・マルシェ」(自主勉強会)を、年間を通じて計4回、都内で開催し、「地域通貨を通した持続可能なまちづくり」「G20ユースサミット報告」「開発途上国の環境問題」「学校現場におけるESDの実践」というテーマで、お互いのESDやSDGsに関する活動事例を紹介し、学び合いました。

また、過去参加者たちは、昨年11月30日に、福山市立大学で開催された「第11回ユネスコスクール全国大会」にて、分科会「持続可能なESDのための教員の資質能力育成~学校全体で取り組むリーダー教師の育成~」にて話題提供をしたり、これまでの自分たちの活動を紹介するブースも出展しました。

同12月20日~21日には、国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された「ESD推進ネットワーク全国フォーラム2019」にて、分科会「ユースと共に進めるマルチステークホルダーの連携」を担当すると共に、活動紹介ブースの出展も行いました。

更に、本年2月22日には岡山大学で開催された「SDGs×ユース・ネットワークミーティング2020」に協力すると共に、翌23日の「SDGsフォーラム in 岡山2020」においても「ESD日本ユース」の活動紹介ブースを出展する等、外部ステークホルダーとの連携を通じたユースたちの活躍の機会も、徐々に増えてきています。

主催 文部科学省、日本ユネスコ国内委員会、公益財団法人 五井平和財団
後援 環境省、国連大学サステイナビリティ高等研究所、公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)、公益社団法人日本ユネスコ協会連盟、特定非営利活動法人持続可能な開発のための教育推進会議(ESD-J)、日本ESD学会、ESD活動支援センター、関東地方ESD活動支援センター
協力 特定非営利活動法人 場とつながりラボhome’s vi、一般社団法人Think the Earth、東京都市大学

本事業は、平成31(2019)年度日本/ユネスコパートナーシップ事業です。